Growth〜成長
元気かい? 君にこうして手紙を書くのは何年ぶりのことだろう。ずっと連絡も入れてなかったから、もしかしたら君は僕が死んだと思っていたのかもしれないね。でも僕は生きていた。しかもこんなに元気だ。
僕は“美”に魅せられて旅に出ていた。と言うのも、ある晩
“美”が僕にこう言ったからだ。
「もしあなたが本物の美を求めているのなら、今ある束縛と約束をすべて捨てなさい」
ずいぶんな話だとは思ったが、僕はそうした。そして“美”の尻尾を追いかけて旅に出た。
僕は光と影の境界線の街にたどり着き、“自由”と暮らし始めた。自由は言った。
「あなたが私だけを愛しているのなら、私はあなたのもの。だけどまだ“美”を求めているのなら、あなたを許さない」
僕は“自由”に取りつかれ、不自由なまま“自由”と戦い、たくさんの代償を払った。だが“自由”に束縛されなければ“美”には会えないことだけは、ぼんやりと分かっていた。 確かその頃、君に一度だけ手紙を書いたっけ。
「俺は今自由だ。窒息しそうなほどに」
時間はかかったが、最後に僕は“自由”を手なずけた。そしてここへ帰ってきた。若さの代わりに教訓を得て。でも僕は年老いてさえいない。
もちろん君のことを忘れていたわけではなかった。僕はずっと君のことを考えていたよ。“美”をものにするためには、君との新しい関係を作りあげる必要があったんだ。だって本当の“美”とは、君と僕が触れあう瞬間の心の中にあったんだから。
僕は帰ってきた。欲望が続く限り人は生きていける。そして僕は自分が欲望を失っていなかったことに気づいた。それは君のおかげだ。君がくれた手紙の中で、君は僕をたしなめ、慰め、そして励ましてくれた。君に心から感謝している。
新しい関係が生まれるといいね。僕らは失ったものを取り戻そうとしているわけじゃない。今までずっと探し続けてきて見つからなかったものを、相変わらず探し続けているだけだ。
僕はどうだい? あの時に比べて、少しは成長したように見えるかい?
また手紙を書くよ。返事を待っている。
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