夢の島についての断片的なメモ
何かがふとある時
あるべきバランスを崩し
その素顔をあらわにしてしまう時がある
その隙間に
切りこんでみよう
日常を瞼に塗りたくった毎日では
見えないものが
見えるはずだ
——————
ぶち壊すことで
何かが始まると信じていた闘志達は
自分達の手でぶち壊した
自分達の残骸の跡に座りこみ途方に暮れる
誰もが黙りこみ
長い沈黙の時がゆっくりと流れていった
(それはある日突然に)
廃墟の地下で何かが動きだす
廃墟のたくらみが公表される
廃墟のカモフラージュが払いのけられ
ほとばしるように始まったパーティー
もう誰にも止められない
“計画通りってわけだ”
だが大きな誤算があった
夜ごとの錯乱と陶酔の揚げ句
澱み
膨らみ
溜まり
溢れ
俺達が目を背け鼻をつまんで切り捨てていった
排泄物たちが
ある時を境に
ひとつの方向へ動き始め
意志を持ち
自ら再生し
ある日忽然とその姿を現した
1人のロマンチストが
そいつに名前をつけた
夢の島と
浪費し
破綻し
取りつくろい
乱気流に吹かれながら
そこに踏みこんだ俺達に
新しい(まったくもって新しい)
幻が与えられた
この幻ってやつは(たちが悪い)
もう1度粉々にしてやらなければ
正体を現さないときてる
(壊れやすいくせに)
ぶち壊せ————あの時と同じように
叩き割れ————外側も内側も
踏みつけろ————まるで違う肌触り
横たわる残骸の群れが
初めて真実とやらを語り始めた
そこがポイントだ
始めようか
短いスパンで考えている
長期的発想ははやらない
つじつまを合わせるためには
嵐からの隠れ場所が必要だ
小さな島のような空間の中でなら
他者を拒否し
主人公になり
かたきを見つけだすこともたやすい
(戦争だって始めそうな勢い)
君と俺
愛しあう2人
憎みあう2人
でもそんな相手を見つけられただけ
2人は幸福だ
「本当に恐ろしいことは
愛されも
憎まれも
しないこと」
2人は固く抱き合い
キリキリと張りつめた沈黙の中で
(何度目の沈黙?)
それぞれの心の中の風の音に耳を澄ませている
それは窓の外の嵐よりも
ずっと激しく
もっと切なく吹いている
絆を歌った
(そのはずだった)
だが歌おうとすればするだけ
そんなものがありはしないということを
逆にズルズルと証明していった
絆を失った男と女が
別々の場所で
別々の早さで時を送りながら
別々の想いを抱いている
————女は電話ボックスの中で
————男は流れのほとりで
たとえ傷つけあっていても
2人でいた方がまだよかったのかもしれない
しかし今はもうふり返る時ではない
俺達はようやく時の流れを
見つめることができるようになった
とても辛かった夜と
とても素敵だった朝を
同じように思うことがでるようになった
あの
誰もが口を閉ざしていた頃のことを————
俺達が初めて目を覚ました時のことを————
少女よ
君は美しい笑顔の半分を
あの夏に日に落っことしてしまったけれど
俺達はみんな
はっきりと憶えている
天使のようなはにかみ方や
ふっくらとしたほっぺたを
君がキラキラと笑ってくれることで
俺達はどんなに勇気づけられたことだろう
君が大きくなって
もし哀しい目に会ったとしても
俺達がみんな君のことを
本当に愛しているということを
忘れないで
——————
そして
逃げ遅れた渡り鳥は
やせっぽちの街路樹の枝につかまり
死期を悟った者だけに許される
断末魔の歌を歌う
美しいメロディ…………吸いこまれそうな
フザケルナ!
かん違いしちゃいけない
あのカーブを抜けたやつの方が
勝利者なんだぜ
綺麗にまとめようったって
そうはいかない
そして
逃げ遅れた男は——女は
(だがもう追われているわけではない)
つけ焼き刃で掘りおこしただけの
塹壕にとどまり
攻撃の時を待つ
せめて刺し違えてやろうと
残された1本のナイフの刃を
舌先でなめる
ビル風に吹かれて舞いあがる
ロマンチックなテロリスト達
すべてが一致する瞬間が
目の前に来ている
(曖昧さのかけらもなく)
ガラクタどもが語り始めた
新しい幻の物語
夢の島へやって来た————
|