Mr.OUTSIDE
  わたしがロックをえがく時
06.02.1991 

.長谷川博一 編
.大栄出版 06.02.1991 初版刊行 1500円
.問い合わせ先:大栄出版 (03-5974-1771)

インタビューより抜粋

――日本のスプリングスティーン・フォロワーについて考えるとき、僕はまっ先に佐野元春、そして小山さんのことを思い浮かべるんです。ブルース・スプリングスティーンとは、どんな風に出会われたんですか。

 スプリングスティーンを最初に聴いたのは《明日なき暴走》だったから、ちょっと遅いかもしれない。「ロック版ボブ・ディランみたいなヤツがいるよ」って友達にすすめられたんだよね。で、そのアルバムを聴いたんだけど、初っ端の〈サンダー・ロード〉からハーモニカじゃない? オーッ、本当にディランみたいだと思ってると、だんだん音数が増えてきて、曲の終わり付近になると物凄い盛り上がりをみせるでしょ。こりゃスゴイって、ハマッちゃったね。何というか、彼独自のどんどん高揚していく感じに憧れたな。



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――自分の曲作りの核となるものを固めるうえで、スプリングスティーンは大きな存在でした?
 裏通り、夜、疾走感、やはりいろいろ触発されてるだろうね。でも、その前にジョン・レノンのソロとか聴きまくってたから、ジョンの音楽ジャンルにこだわらない自由奔放な感じに、まずは惹かれてたんだ。たとえば〈マザー〉の楽器編成でいうと、ドラムとベースとピアノだけじゃない? それであそこまで歌われちゃうと、これでいいんだ、これがロックなんだ、と思わないわけにはいかなかった。

――スプリングスティーンの前に、ジョン・レノンの洗礼を受けていたというわけですね。

 正確にいうと、ジョンの後にボブ・ディランがくるの。《激しい雨》というライヴ盤をリアルタイムで聴いて、ブッ飛んだね。これは激しい、と。そしてスプリングスティーンがくるわけ。この3人は別格だね。熊本で独り暮らしをしている時、朝から晩まで彼らのレコードばかり聴いてた。音がすり減って聴けなくなると、もう1枚買いにいくって感じだったな。

――確かに、小山さんの音楽の中には、いま挙げられた3人の足音が聴き取れますね。

 曲のアレンジを考えてる時、面白いなと自分で思えるのは、やっぱりこの3人だったからね。でも、それ以外にも70年代初期のポップスとか、結構影響されてる気がする。
 例えば、サイモン&ガーファンクルの〈アメリカ〉という曲があるじゃない。あの中で、カップルが“僕達2人でアメリカを探しにいこう”とバスに揺られながらワイワイやってて“ギャバジンのスーツを着た男はスパイだ”とか勝手気ままに言い合ってる。そして“タバコを投げてくれよ”“もう喫ってしまったわ”なんてやりとりをして、最後の方で“何だか分からなくなってきたね”と言いながらもアメリカを旅して回ってる。何かそういう移動してる感覚、っていうか旅してる感じがとても好きだった。歌詞に関しては、いつか〈アメリカ〉みたいなものを書きたいと思ってたし、そういう手本になるような曲がいくつかあったね。
 それから映画の影響もかなりあると思うよ。高校を卒業した頃から観はじめたアメリカン・ニューシネマとかロード・ムーヴィーといわれてるものに入れ込んでたから。いまだに詞を書く時、ひとつのスタイルとして、こうしたロード・ムーヴィー的なニュアンスで作ることが多いな。

――〈イエロー・センター・ライン〉は、ロード・ムーヴィーのエッセンスを散りばめた、小山さんにとっての〈アメリカ〉なんでしょうね。

 あの曲は、まずヴィジュアル・イメージが先行してあったんだ。ガス欠の車を押す男の後ろ姿と、ハンドルを握って振り返る女の笑い顔。そのふたつが、頭の中で鮮明な像を結んでたの。映画でいうと、タイトル・バックが流れるラスト・シーンなんだよね。

――ガス欠の車を押しながら、というのが小山さんらしい気がしたんですが。

 『イージー・ライダー』にしろ、『ヴァニシング・ポイント』にしろ、ニュー・シネマ的なロード・ムーヴィーって、疾走してるその状態を描いてるものじゃない? それで最後は、失速するだけじゃなく、消滅しちゃう。まさに、それってヴァニシング・ポイントなんだけど(笑)。そういう刹那的な疾走というのにウンザリしてた時期だった。上の世代の人達が体験したその疾走って、実際には俺自身、体感できなかったわけだし。あくまでもそれは、疾走感でしかなかった。だから、カット・アウトする疾走感じゃなくて、フェイド・インしていく、俺なりの疾走感を見いだしたかったんだ。

――その思いが、“本当にいい時はこれからさ”という最後のフレーズに凝縮されているわけですね。

 うん、やっぱりあの曲では、新しい疾走感としての希望を歌いたかったんだ。


(c)1991 HIrokazu Hasegawa