町支さんはかっこいい 町支寛二ツアー・パンフレット


 町支さんは煙草を吸う。
 スタジオに入ってきてにこやかに「お早よう!」と言ってソファに座り、おもむろに吸う。しばしの談笑の後、プロデューサーが「町支、そろそろ頼むよ」と言うと、「そんじゃまあ、よろしく」と灰皿を持ってブースに入る。
 マイクの高さを調節しながら火を点け、走り書きした譜面を見て煙を吐きだし、「じゃあお願いします」と言いながら、まだ煙草を吸っている。テープが回りだしてコーラスが重ねられていく。灰皿の吸い殻は増え続け、ミキサールームから見ていると、だんだんブースの中が煙ってくる。たまにその煙で自分でむせたりもする。張りのある透き通る声の持ち主とは思えないほど煙草を吸う。僕もかなりの本数をこなすが、ボーカルダビングの時期は意識的に減らそうとする。町支さんはおかまいなしだ。

 町支さんは変なことに気がつく。
 ある日、スタジオのアシスタント・ミキサーの女の子をしげしげと見つめ、「彼女、なんか雰囲気が変わったなあ。絶対恋をしてるよ。それもちょっと辛いやつ」と言った。
 後でその子を問いつめてみると、本当に恋をしていると告白した。どうやら報われぬ恋らしかった。

 町支さんはかっこいい。
 ステージに上がると豹変する。僕の曲をアレンジしてくれたりコーラスパートを作っている時の町支さんには、落ち着いた雰囲気のパワーがみなぎっているが、ステージの上の町支さんは、別人のようにシャープだ。ステージ前へ飛びだしギターを振りかざす姿は、見ている僕らをエキサイトさせる。
 終演後の楽屋で、シャワーを浴びてスポーツタオル1枚の町支さんは、まるで長距離を走り切ったランナーのようなすがすがしい顔で笑う。

 町支さんはもうひとつかっこいい。
 町支さん自身のアルバムの制作とぶつかったために、今回は僕の曲のアレンジはしてもらえなかったが、コーラスアレンジをやってもらえることになった。その打ち合わせの時、「〈天使の歌う朝〉って曲なんですけど、間奏でどこからか、天使の歌声が聞こえてくるような感じにしたいんですよ」とやけにアバウトな意見を出すと、「なるほどそうか。うん、すごくよく分かった。イメージが膨らんだよ」と言ってくれた。
 ダビング当日、僕は本当にどこかで天使が歌っているような錯覚に落ちた。まさに町支さんの独壇場だった。
 プロデューサーが同じだということで、前回のアルバムの曲をアレンジしてもらったのがきっかけで、町支さんとの関係が始まった。
 町支さんにとって僕は初対面だったが、僕は愛奴のステージで町支さんを客席から見たことがある。その時に聞いた「二人の夏」は、今でも憶えている。ずっと後輩として音楽を始め、今こうして町支さんと一緒に仕事をしているのがなんだか信じられない。次の機会にまた一緒に仕事ができることを心から願っている。


Special Thanks To Road&Sky and Mr. Choshi


 

(c)1992 Takuji Oyama