dear #24
明けましておめでとう。どんな新年だった?
今年はとうとう初詣に行きそびれてしまった。まあ、どうしても行かなきゃってほどでもないんだけど、おみくじくらいひきたいと思って。
あれは1982年、僕が東京へ向かうことになる年の正月、おみくじで「凶」をひいた。ちょっとへこんだんだが、考えてみれば正月に凶をひき当てることの方が逆に難しいかもしれない、これは運がいいのかも、と思い直した。実際、その時は最高にラッキーな年になった。そんなことで一喜一憂するなんて、やっぱり日本人だな。
以前、地下鉄の階段を下りている時、落ちていたお守りを踏みそうになって、慌ててよけたことがあった。日本人だな。
正月気分も2日までにして、仕事にかかっている。生まれかけの歌が2曲、仕事場のテーブルの上にある。
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卓治
dear #25
ある映画の中で、画家が詩人に、こう言うシーンがあった。
「君は、目の前にいないものに対して悩み、詩を書かなければならない。画家は違う。目の前にあるものに対して悩む」
詩人は虚空を見つめて詩を描き、画家は対象を見つめて絵を描く。
目の前にないものへの気持ちとは、思慕だ。熱く望むことだ。
例えば、愛する女性と一緒にいる時、ラヴソングは生まれない。歌など描いてる暇はない。女性と会ったその帰り道、またすぐに会いたくて恋しくて、詩が生まれる。女性のことを何度も何度も思い浮かべながら。
最近、僕は毎日虚空を見つめ続けている。
別の映画で、こんなセリフもあった。
「画家に敵はいない。駄作があるだけだ」
これは詩人も同じだ。
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卓治
dear #26
ここしばらく、ファンクラブ〈OFF〉会報の原稿整理や、新しいファンクラブ〈ONE〉の中のウェブマガジン〈eyes〉に掲載するデータ制作などをやっていた。〈eyes〉のコンテンツ、「レアサウンド」にはThe Conxとの音声データを、「レアビジョン」には98年のライヴ映像データを掲載する予定だ。他にもいろんな企画を考えている。
そして、この週末からいよいよ今年のライヴが始まる。まずはイベント出演、そして2回目の蔵前KURAWOODでのステージ。それ以降のライヴの詳細も決定した。タイトルは“eyes”。
“eyes”とは、僕にとっての“新しい視点”という意味だ。そしてもうひとつ、密かな願いも込めている。
それは、“eyes”の中に潜んでいる小さな“yes”。
シンプルな“yes”は、時として間抜けに見える。それなら僕は、タフな“yes”を積み重ねながら、これからの日々を生き抜いていこうと思う。
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卓治
dear #27
ひさしぶりに引っ越すことにした。
僕は、趣味だっていうくらいよく引っ越しをしてきたんだが、ここ数年は同じ所に住み続けていた。そのせいか、梱包を始めたら、いらないものが山のように出てきた。それを全部処分して、すごくさっぱりした気分だ。
身軽になって、これから日々眺める景色も変わって、生まれてくる歌も変わるかもしれないな。
「都会の光と影を歌うシンガー」なんてキャッチコピーをつけられて、まあ、確かに都会を舞台にした歌をたくさん作ってはきたが、僕がずっと歌おうとしてきたことは、そこに生きる人間たちだ。かっこ悪くても、みっともなくても、さびしくてしょうがなくても、生きていくしかない人間たちだ。そして「人生って悪くないじゃん」と、笑顔を浮かべる、そんな人間たちだ。
2/24
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卓治
dear #28
今年のライヴサーキット“eyes”がスタートした。新しい歌をステージから届けられることが、今はすごく幸せだ。なかなか行けない街の人にも聴いて欲しいから、ONEで期間限定で新曲を公開しようと思っているところだ。
昨日、鳥取県の米子でのライヴが決まった。タイトルは「another story of “eyes”」。
昔、雑誌の編集をやっていた友人が米子に住んでいて、最近メールのやり取りをするようになった。その中で、「歌える所があるなら、ギター1本背負っていつでも行くよ」なんて言ってたのが、現実になった。彼が奔走してくれたおかげだ。感謝してる。
小さな一歩だけど、本当に嬉しい。初めての街、初めての小屋、そして僕の歌を知らない人たちの前で、「初めまして」のステージをやる。考えただけでもワクワクする。
3/10
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卓治
dear #29
数日前、法政大学の前を通りかかったら、ちょうど卒業式が終わったところらしく、たくさんの学生たちが晴れやかな顔をしてキャンパスにあふれていた。男性はほとんどスーツだったが、女性は晴れ着姿が多かった。特に、はかまを着てる子が多かったな。レトロなスタイルなんだけど、みんなキラキラしてた。
僕は大学には入ったが出てないから、卒業の時の喜びや、社会へ向かう不安や覚悟など、本当の気持ちは分かりようもない。
どこかに自分が所属しているという感覚が、常に僕にはない。一匹狼なんていうとかっこよすぎるし、プータローじゃあ悲しすぎる。
でも、自分が本当にやるべきことを見つけ、それをやっているという自覚だけはある。
それを、今、やるだけだ。
3/28
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卓治
dear #30
ボヴェ和歌子さんという陶芸家と知り合いになった。作品を見せてもらい、いろんな話をした。
彼女は4/29〜5/4に個展を開催し、その会場ではインスタレーションとして、様々なパフォーマーが登場し、陶器とのコラボレーションをするという。頼まれて、僕も4/29に出演することになった。
場所は、れBit.Garden(0465-36-0054)。小田急線の富水駅から徒歩10分。入場は無料だ。詳細はRED & BLACKに掲載するから、興味がある人はのぞいてほしい。
陶器に囲まれて歌うなんて、もちろん初めての経験だ。PAもないギャラリーで歌うってことも初めて。ただ、話を聞いているうちに「面白そうだ」と思った。今までにない空間に、僕の歌を響かせてみたい。
とはいえ、何を歌おうかな。陶器だって生ものだから、ボヴェさんの作品に悪影響を与えないようにしないとね。
4/11
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卓治
dear #31
4本のライヴが無事終了した。ひさしぶりの京都と大阪では、新曲をたくさん歌うことができたし、2時間を越えるライブになった。初めての米子では、少ないお客さんだったけれど、歌うことの幸せを噛みしめた。そしてギャラリーで陶器に囲まれて歌った小田原は、遠い所にもかかわらずお客さんも来てくれ、いい空間に歌を響かせることができた。作品を買ってくれた人が2人いたらしく、ボヴェさんも喜んで、そして楽しんでくれた。
ちょっと一段落。今年はこの後も、面白い企画が生まれそうだ。
引っ越しして、ほぼ2ヶ月。この新しい場所からどんな歌が生まれてくるのか、今は自分でも楽しみにしている。根本は変わらないんだろうけど、目に入ってくる初めての風景が、今までにないヒントをくれるかもしれない。そうそう、この間初めてさくらんぼの花を見たんだよ! いや、まあ、それは歌にはならないとは思うけどね。
5/6
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卓治
dear #32
ブルース・スプリングスティーンの新譜《DEVILS & DUST》を聴いた。歌が、言葉が、声が、恐ろしくリアルに突き刺さってきた。
アメリカから遠く離れた日本で聴いている僕にとっては少なくとも、今のアメリカのやり場のない絶望や徒労感、微かな希望を伝えてくれるのは、ブルースしかいない。
アルバムは全米でトップになったとか。アコースティックなサウンドとシンプルなメロディで構成されたこのアルバムが1位になるなんて、アメリカっていうのはやっぱりふところが広いんだな。
僕らが“アメリカ”としてとらえているニューヨークやロサンジェルスなんて、アメリカのほんの一部でしかないってことなのか。
ここのところ毎日、ブルースの声が部屋に響いている。その声が僕のケツを叩き始めた。「おまえが今、本当に歌うべきことは何なんだい?」と。
5/24
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卓治
dear #33
鳥取県米子に続き、デビュー以来初めてとなる長野と大分でのライヴが決まった。
長野は、シンガーで古い友人の鎌田ひろゆきと2人で行く。他では聴けないセッションが実現しそうだ。
大分は、県立三重高校の文化祭への出演だ。この高校で教師をしている藤澤一郎君が、人権学習や現代詩の観賞などの授業の素材として僕の歌を使ってくれたのがきっかけで、生徒諸君が僕の歌を好きになってくれ、文化祭へ呼んでくれることになった。
すごく感激している。ファンの人が新しい世代へ僕の歌を届けてくれたこと、若い人たちに僕の歌が伝わったこと、そして僕にとってほとんど経験のない高校の文化祭という場所に招いてくれたこと。
藤澤君は、COCK'Sというバンドで僕の歌をカバーしてくれているらしく、文化祭当日は、彼のバンドとの共演も実現するだろう。本当に楽しみだ。
そのステージは入場無料で一般開放するそうだ。近くの人はぜひ遊びにきてほしい。
6/13
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卓治
dear #34
結局はライヴなんだ。
22年間、テレビなどに出ることもなく、残念ながらヒットチャートをにぎわすこともなく歌い続けてきた僕にとって、一番の表現の場所はライヴだった。そこから生まれていった歌、そこで築かれていったファンの人たちとの絆、それが僕の大切な宝物だ。
そんなたくさんのライヴの中から、僕とファンの人たちにとって思い出深いテイクを集めて、《Bootleg!》というライヴベスト盤を2枚制作した。
「Bootleg!」には海賊版という意味があり、ディスクはCD-Rだ。制作会議や予算見積もりなどということを全部すっ飛ばして、これからはフットワークで出していく。
会場での販売だけじゃなく、ネット販売も7月から開始することになった。詳細は近日中にこの「小山卓治NEWS!!!」で発表するので、楽しみにしていてほしい。
数日後に、僕はまたステージに立つ。イベントであっても、それが特別な夜であることに変わりはない。
そう、結局はライヴなんだ。
6/28
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卓治
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