2005年7月〜12月

dear #35
 ファンクラブで発行している3ヶ月に1回のウェブマガジン〈eyes〉の撮影で、太平洋、築200年のかやぶき屋根の家、彫刻家のアトリエなどを訪れた。今まで感じたことのない空気を体中に染みこませると、今までにない新しい写真が撮れていた。その時に僕の心を震わせたものは、これからも僕の中に残り続けるだろう。
 若い頃は、形のない“憧憬”というものが僕の心を震わせ、歌を作らせた。それから巨大な都市が心を震わせた。今は、さらにたくさんの大きなものが僕の心を震わせる。風の音、うち寄せる波、避けられなかった争い、怒りがもたらす哀しみ、時を経た深い微笑み、時が止まるほどの抱擁。
 そして最後の最後は、また憧憬に戻るのかもしれない。
 そこに、人を攻撃するためのこぶしはない。自分を傷つけるための刃はない。きっと。
7/13
love,
卓治


dear #36
 70年代、映画からは音楽が流れていた。『卒業』『いちご白書』『イージー・ライダー』『アメリカン・グラフィティ』、そしてもちろん『ウッドストック』『バングラデシュ』『ラスト・ワルツ』。
 先日、『小さな恋のメロディ』のDVDを買った。ビージーズやCSN&Yの歌声が、あの時の響きのままに蘇ってきた。
 映画が僕に与えてくれた影響はとても大きい。映像が綴られていく中で聞こえてくる音楽は、物語として僕の耳に届いた。
 うろ覚えだが、ある新聞記者がこんなことを言っていた。「私は世の中を少しでもよくするために記者になり、真実を伝えてきた。だが今は、物語だけが人の心を本当に潤すということを知っている」。
 人にはそれぞれの物語がある。僕は歌を作りながら、その歌が誰かの物語のひとつになることを、誰かの物語のサウンドトラックになることを心から祈っている。
7/28
love,
卓治


dear #37
 映画『ローズ』を改めて見た。好きな映画は何度も見る。そのたびに細かいディテールで新しい発見がある。若い時に見た映画を今の年齢で見ると、また違うものを感じる。音楽もそうだよね。
 60年代のロックシーン、ジャニス・ジョプリンをモデルにしたシンガーが破壊的なツアーをくり広げる。まるで音楽とセックスしているようだ。だがローズは、ドラッグと孤独とプレッシャーとジレンマに押しつぶされ、音楽と共に自滅していく。
 そんなロックに憧れはあった。確かに。だが僕がデビューした頃、ロックは大きなビジネスとして回っていた。
 ジャニスやジミ・ヘンドリックスを聴き、その死を知り、僕らはそこから「生き残ること、生き続けること」を学んだ。
 そして今。僕らは80年代や90年代の音楽から、いったい何を学んだんだろう。
8/12
love,
卓治


dear #38
 デビューして初めて訪れた長野でのライヴは、大盛況の中で終了。来てくれたみんな、本当にありがとう。
 そしてもうすぐ、これも初めての大分でのライヴが間近に迫ってきた。ライヴハウスと高校の文化祭のツーデイズだ。この一週間ほど、スタッフと何度もメールを交わしながら、ライブへ向けての最後の準備を進めているところだ。
 文化祭出演のきっかけを作ってくれた大分県立三重高校の先生、藤澤君とも直接メールをやり取りしている。アレンジやセットリストなどについて、お互いの意向を確かめ、いよいよステージの全体像が見えてきた。
 三重高校は2年後に他の高校と統合するため、3学年が全部そろう文化祭は今年で最後だという。彼ら、彼女らの大切な思い出のためにも、最高のステージをやらなきゃと思う。
 そしてきっと僕のキャリアの中でも、このステージは素敵な思い出として残ることだろう。
8/25
love,
卓治


dear #39
 大分の2日間のライヴは、予想以上に素晴らしいものになった。
 カンタループ||のオーナーの渕野さんは、僕が大学の時にしばらくいたロック同好会の後輩になるらしく、色々と尽力していただいた。ファンの人たちがわざわざ作ってくれたライヴ告知のチラシがあり、こんなコピーが載っていた。「迷ってるやつは、ついてこい!」。お客さんも九州一円にとどまらず、全国から足を運んでくれ、満員の会場の熱気がすごかった。
 すずかけ祭は、三重高校の全生徒や先生方や父兄のみなさん、一般のお客さんで満員の大ホールの客席へ向けて、歌を届けることができた。藤澤先生率いるCOCK'Sも溌剌とした演奏をしてくれた。
 ステージの最後は、生徒諸君や先生方がステージへ上り、全員で〈種の歌〉を歌った。
 高校生たちの澄み切った瞳と歌声が、今も心に温かく残っている。彼らがこれから様々な人生を送っていく中で、僕の歌が少しでも役に立ってくれたらと心底思う。
 忘れないでほしい。歌でひとつになれたあの時のことを。僕も君たちのことを忘れない。
9/13
love,
卓治


dear #40
 東京では4ヶ月ぶりになるツアー〈eyes〉が間近だ。
 前回の東京でのライヴの時から始めた《Bootleg!》の新しいシリーズができた。《Vol.3》、《Vol.4》、そして好評だった《Nagano Edition》をリリースする。もちろんネット販売も始めるから、詳細を楽しみにしていてほしい。
 今回も、かなりレアなラインナップを揃えることができた。デビュー当時のテイク、熱気あふれる渋谷Live Inn、未発表の曲、歌詞が違う初演のテイクなど。
 音源は僕の責任で編集している。山のようにあるカセット、MD、DAT、CD-Rを聴き直して決める。
 音と共に、当時のことが思い出される。愚かだった自分、空回りしていた自分、何かを見つけた自分、失った自分、取り戻した自分。そんな僕を強く強く励ましてくれてきたお客さんの声を、今回の《Bootleg!》でもたくさん聞くことができる。
 作業をしながら、僕は歌を選んでいるのではなく、絆を探しているのではないかとさえ思った。歌が、人から人へ直接伝えるものである限り、そこには必ず、強い絆が生まれる。それこそが僕が歌い続ける原動力で、新しい歌を作り続ける理由だ。
9/30
love,
卓治


dear #41
 ONE - Oyama Takuji Network Eyes(オフィシャルファンクラブ)では、年に4回、会報誌に当たるウェブマガジンを発行している。つい昨日〈eyes Vol.4 秋号〉を発行したばかりだ。音声や動画の配信(今回は全部で2時間くらいになった)、ページ数に縛られない自由なデザインと膨大なテキスト、ファンのみんなからのたくさんの声、最新の詩から〈FILM GIRL〉のデモテープまで。作っていて本当に充実している。
 ここに来て、ファンクラブという通称に、少し違和感を感じ始めている。ファンクラブというと、どうしても一部のコアなファンのためのものという気がしてしまう。僕がやりたいのは、全国で(海外も含めて)応援してくれている人たちが集う広場を作ること。そうだな、キャンプファイアーでみんなで火を囲んで、そこで僕がギターを弾いたりみんなと話したりしているイメージが近いのかな。ファンクラブではなく「ファン コミュニティー」といったものかもしれない。
 ネットを使い、10年前には考えられないような新しい形の対話や握手がここにある。僕がデビュー当時に高校生で、今や2人の子持ちなんて古くからのファンの人も参加してくれている。
 来てみないかい? ドアはいつだって開いてる。
10/13
love,
卓治


dear #42
 ライヴもひとまず一段落し、今は次へ向けて、ギターを弾いたりピアノを鳴らしたり、パソコンのキーボードを叩いて物語を綴ったりしている。ゆったりできそうなものだが、ライヴのようにスタートとゴールが決まっているものに比べ、意外にピリピリした日常になってしまう。今日は窓から気持ちのいい陽射しが入ってきてるんだけどな。
 去年の今頃、「dear #22」でも書いたんだが、この週末、SMILEYと会って年末のライヴに向けてミーティングすることになっている。ミーティングといっても、内容がほぼ決まったら後はひらすら飲むばかり。
 SMILEYと会うのは、去年のライヴ以来だ。ここのところ年末だけしか会ってないことになる。それでも、ほとんどリハーサルもなしでライヴやれるんだから、僕にとっては大事な存在だ。
 以前、僕のイベントでいろんなミュージシャンとステージに立っていた時に、SMILEYが言った。
「小山、他の人たちはソウルメイトって呼んで、俺は呼ばねえのかよ!」
「おまえはソウルメイトじゃなくて、ダチだ!」
 企画が決まったら知らせるよ。今回はひさしぶりにネット中継も計画している。なかなかライヴに行けない街の人にもぜひ楽しんでほしい。
10/27
love,
卓治


dear #43
 12/26のネット中継の詳細が決まった。 去年はONEのスタートへ向けて3回のネット中継をやってきた。ライヴイベントの中継だけじゃなく、僕の仕事場から、SMILEYをゲストにおしゃべりしたり歌ったりという中継もあった。しばらく空いてしまったが、今後もネット中継はコンスタントに続けていこうと思っている。
 僕のスタンスとして、ツアーのステージは中継しないことにしている。ライヴには、ライヴ会場で同じ空気を共有することで初めて生まれる感動や共感があるからね。
 今回のイベントは、僕もSMILEYもリラックスして、双方向のコミュニケーションを楽しみながらやりたいと思っている。もちろん演奏はたっぷりやる。
 海外からの参加者もいるし、全国のたくさんの人たちにリアルタイムで歌を届け、会話さえ楽しめるネット中継は、素晴らしいアイテムだと思う。会場に足を運べない人はぜひ参加して、僕やSMILEYへのメッセージやツッコミをメールで送りながら、同じ時を楽しんで欲しい。待ってるよ!
11/10
love,
卓治


dear #44
 先日、ONE(オフィシャルファンコミュニティー)に掲載するコンテンツ〈Photograph〉のための撮影をしてきた。街は少しずつクリスマスイルミネーションに彩られ始めていた。今年はなぜかブルーの光が多かったような気がしたな。木枯らしが吹く中、コートを着てマフラーを巻いての撮影になった。
 その夜に着たトレンチコートは、ずいぶん前にニューヨークに行った時にフリーマーケットで買ったものだ。今のレートで換算しても30ドルくらいしかしなかった。相当古びてるんだけど、愛着があって捨てられない。
 ひさしぶりに袖を通して、当時の自分を思い出した。ハードボイルドやダンディズムを気取り、サングラスをかけ、煙草の煙で表情を隠した。
 今にして思えば、自分を裸にするのが恐くて、スタイルに身を包んでいたんだと思う。スタイルは作りすぎると鎧になる。その重みに、いつしか自分が耐えきれなくなる。
 年月を重ね、今は裸の気持ちで歌を歌える。裸の気持ちを率直に伝えなければ、相手の心に届かないことを知ってる。
 もう、鎧はいらない。
11/24
love,
卓治


dear #45
 ONEのコンテンツに「突撃インタビュー」というものがある。ファンの人と直接会って、お茶を飲みながら話をし、インタビューを受けるという企画だ。先日、2回目の「突撃インタビュー」で、デビュー当時から応援してくれている2人と会ってきた。色んな話題で盛り上がる中、「新曲を、今の段階のテイクでもいいから聴きたい」という提案が出た。なるほどな。
 新しい歌は、ライヴで何度か歌っていくうちに、メロディや歌詞が変わったりする。そうやってライヴの空気の中でもまれているうちに、完成の形が見えてくる。今ライヴで歌っている新曲は、言ってみればまだ未完成。だが、今この時だけの形というものも持っている。それを聴いてもらうのも悪くないな。
 ONEに〈Songs In The Egg〉という新しいコンテンツを作った。まだ卵の中にある歌、という意味でタイトルをつけた。2週間に1曲ずつ、新曲を公開していく予定だ。なかなか行くことのできない、たくさんの街に住んでいる人たちにも、歌を届けたいから。
12/12
love,
卓治


dear #46
 今年1年、応援してくれて本当にありがとう! そしてこの「小山卓治NEWS!!!」や「dear」にもつき合ってくれて、ありがとう。
 今年は、まさにライヴな1年だった。ツアー〈eyes〉をスタートさせ、初めての米子、長野、大分、たくさんの街で歌うことができた。ライヴテイクを集めた《Bootleg!》シリーズのリリース、そしてONEも軌道に乗り、新しい表現スタイルを手に入れることができた。
 今年、48歳の誕生日を迎えた時、ある人に言われた。
「男が面白いのは、50歳からだ」
 だとするなら、まだこれからどんどん面白くなっていくわけだ。
 48歳は元気だ。みんなも元気に年を越して、また来年会おう。君の住む街で。そしてネットの上で。
 素敵な新年を!
12/27
love,
卓治


小山卓治 News!!! 配信中!

 「小山卓治 News!!!」は、小山卓治の最新情報やウラ情報など満載のメールニュースです。卓治からのコメント(「dear」というタイトルで随時配信されています)や、ライヴ終了後にはセットリストや出演ゲストからのコメントなど、「小山卓治 News!!!」でしか見ることができない情報を配信しています。
 もちろん登録は無料! メールアドレスをお持ちであれば、どなたでもお申し込みができます。携帯電話での受信も可能です。
 受信文字制限のある携帯電話では、情報を全て受信できない場合がございます。あらかじめご了承下さい。
 登録は、以下のアドレスへ「小山卓治 News配信希望」とお書きの上、送信してください

takuji@ribb-on.com


CLOSE


(c)2005 Takuji Oyama