2009年7月〜12月

dear #104
 梅雨空が続き、ギターの音も湿っぽい。早く終わらないかな。いや、夏が来たら、それはそれで暑いのは苦手なんだけど。

 今月もたくさんのライヴが控えている。
 “晴れたら空に豆まいて”で、僕がホスト役をつとめるイベント〈Beast meets Beauty (野獣が美女に出会うライヴ)〉の今回の歌姫は、矢野絢子さん。彼女は高知を拠点に歌い続けている。その歌声は力強く、切ない。
 このイベントでは、それぞれのステージで、お互いの歌をカバーする。僕が歌う矢野さんの歌、矢野さんが歌う僕の歌を、ぜひ楽しんでほしい。
 矢野さんの〈ニーナ〉という曲がある。初めて聴いた時、鳥肌がたった。ライヴでは、彼女と、バイオリンの嶋崎史香さんと一緒に、この歌をやることになった。

 福岡は、地元で活動しているコーガンズとのライヴだ。ボーカルのジンロウとは前からの知り合いで、彼と話す中で今回の企画が実現した。彼らともセッションすることにしている。
 彼らは仕事をしながらの音楽活動だから、アマチュアということになるけど、その音楽性はプロの域に達している。そもそも今時、アマチュアとプロの線引きなんて意味をなさない。
 僕も全力で歌う。

 そして僕の地元、熊本では、パーソナルバンドAloma Black'sとサックスのSMILEYとのバンドライヴだ。
 去年は2度、熊本でライヴをやることができた。僕の古い友人のバンド、いわゆるオヤジバンドとの共演もあった。
 自分のバンドを連れていってライヴをやるのは、デビューの年以来だ。熊本城の二の丸公園というところでのイベントに出演した。
 SMILEYが在籍したThe Conxと一緒にステージに立ち、最後にやった〈NO GOOD!〉では、僕とSMILEYでステージを飛び降り、客席の中を走り回ったっけ。懐かしい思い出だ。
 今回は、今のベストの形でライヴをやることができる。たくさんの人に楽しんでほしいな。

 7月は、まだまだライヴが続く、岐阜、名古屋、大阪。みんなと会える日が待ち遠しいよ。

7/1
love,
卓治


dear #105
 関東はようやく梅雨明け。外はうだるような暑さだ。

 福岡と熊本のライヴは大成功だった。ここのところ、1本1本のライヴに確かな手応えがある。
 福岡のコーガンズとは、アンコールセッションで僕の曲を2曲、彼らの曲を1曲、そしてRCサクセションの〈トランジスタラジオ〉もプレイして、すごい盛り上がりだった。
 ライヴの後は、そのままSPIRAL FACTORYでファンの人も交えて打ち上げ。シメはひさびさの博多ラーメン。2回替え玉しちゃった。

 翌日の熊本は、地元ということもあってちょっと緊張したけど、みんなすごく楽しんでくれた。
 Aloma Black'sのドラムJACKは、生まれは熊本で、彼への声援も大きかった。
 打ち上げは、僕の古い友人たちも交えて総勢20人くらいで、朝まで3軒はしごして大騒ぎ。いやはや。

 それぞれの映像をYouTubeにアップしている。「小山卓治 傷だらけの天使」「小山卓治 Hustler」で検索すればヒットするから見てね。

 来週の岐阜、名古屋、大阪へ向けてのリハーサルが再開。
 岐阜でライヴをやるのは初めてだ。最近、岐阜の人が何人か僕のオフィシャルファンコミュニティーONEに入ってくれて、それがきっかけで行くことにした。初めての街、初めての会場。新しい出会いがあるかな。
 そういえば、岐阜の郷土料理で、“鶏ちゃん”っていうのがあるんだって。ネットで調べてみたけど、うまそうだなあ。時間があったら食べにいこう。

 名古屋と大阪は、去年、結成したばかりのAloma Black'sとバンドライヴをやった。今年はAloma Black'sにサックスのSMILEYを加えたベストメンバーで行けることになった。
 Aloma Black'sは、去年とは見違えるようなバンドになった。僕が今考える、一番理想のサウンドが生まれている。
 今まで一緒にやった、The Conx、DAD、BACCHUS、その全部のサウンドを継承し、そこに27歳のパワーがミックスされている。
 僕らのベストパフォーマンスを、ぜひ楽しんでほしいな。

7/15
love,
卓治


dear #106
 岐阜、名古屋、大阪のライヴも、すごい盛り上がったよ。

 初めて訪れた岐阜。2nd Stringsは小さな会場だけど、スタッフのみなさんがすごく温かく迎えてくれて、しっかりライヴをフォローしてくれた。
 Aloma Black'sのMercyとの、アコースティックギター2本でのライヴは2度目だったが、新しいグルーブが生まれた。きっとこれから、もっともっといいサウンドになっていくだろう。

 岐阜ライヴのサブテーマ、「“鶏ちゃん”を食う」は、岐阜ではかなわなかったが、翌日の名古屋ライヴの打ち上げで、全員が初体験で食べた。うまかったなあ。

 去年、結成したばかりのAloma Black'sで、名古屋と大阪に行った。
 あれから1年。腕を磨いて見違えるようになったバンドに、サックスのSMILEYを加えたベストメンバーでのライヴが実現した。
 ライヴはスタートからフルスロットル。27歳の若さが、曲に新しい風を吹き込んだ。
 それだけじゃなく、僕のピアノと一緒にプレイした〈Rock'n Roll's Over〉や〈Yellow Center Line〉では、SMILEYが当時と変わらないサックスを披露した。

 僕はこのバンドを本当に自慢に思っている。もっともっとたくさんの人たちに、今のサウンドを聴いてほしい。

 オフィシャルファンコミュニティーONEでは、ツアーの模様を、写真とライヴ映像で特集する予定だ。

 さて、次は札幌でのスリーデイズだ。
 まったくの生の声と音だけで歌を届ける〈Naked“eyes”〉。Aloma Black's + SMILEYでのバンドライヴ。そしてMercyとSMILEYでの3人のライヴ。
 曲は、3日間ほとんとかぶらないセットリストでやろうと思っている。
 それぞれ違った空気感でのライヴになるだろう。
 すごく楽しみだ!

 あ、そうそう、札幌のパン屋さんやコンビニには、ちくわパンっていうのがあるんだって?
 これは食ってみなきゃ。きっと、なまらうまいだろうな。

8/3
love,
卓治


dear #107
 オフィシャルファンコミュニティーONEで3ヶ月に1度発行している〈eyes〉。今月末に発行する号で、Vol.20になる。
 そこに毎回掲載している〈巻頭詩〉というコンテンツがある。書き下ろしの詩を僕がリーディングして、音楽を入れ、デザイナーが映像を重ねる。
 完成したばかりの音声データを、デザイナーにメールで送ったところだ。

 今日は僕の誕生日。52歳になった。
 3日前にファンの人たちを招いて、バースデイイベントをやった。その時に話したんだが、52歳というのは、ひとつの通過点。歌い続けることを確かめるためにある、ひとつのポイントでしかない。
 歌い始めた時、僕は短距離ランナーの気持ちだった。未来の展望など考えることもなく、ただ“今”を走り、“今”をむさぼり、“今”だけに生きた。
 そして時を重ね、いつの間にか長距離ランナーになっていた。
 いつから変わったのか、自分でも定かじゃない。以前、何かの雑誌に「今やベテランの小山」と書かれて「え? ウソ」と思った時は、まだ短距離を走っていたのかもしれないな。
 長距離ランナーの気持ちに変わっても、やっぱり大切なのは“今”だ。ただ、以前に比べて“今”の重要さをよく知っている。以前よりもさらに強く、“今を生きる”ことを思う。
 若い時は、失敗しても「次があるさ」と思った。今は違う。「失敗してる暇なんかないぞ」と思う。
 1日を、1本のライヴを、すごく大切にしたいと思っている。

 先日、鳥取県の米子で、織田哲郎君とジョイントライヴをやった。織田君とはライヴの前に少し話したことがあるだけで、一緒に音楽をやるのは当日が初めてだった。
 それぞれのステージの後、最後にやったセッションでは、何かが深く交感されたように感じた。ライヴハウスを埋め尽くしたお客さんにも、それが伝わったはずだ。
 大きな手応えがあった。

 そしてライヴは続く。
 〈唄旅シリーズ〉で、名古屋、金沢、福井へ行く。金沢は21年ぶり、福井は初めてだ。
 きっと、新しい発見や、新しい出会いがあるはずだ。

9/16
love,
卓治


dear #108
 夏のツアーも一段落。秋がやって来た。
 この季節は好きだ。「今日は仕事はしない」って決めた日は、クロスバイクに乗って、ちょっと遠出する。お祭りに出くわしたり、いつもは通らない道でお洒落な店を発見したりする。

 「今日は部屋で仕事」の日は、起きたらまずパソコンを立ち上げる。最近新しいパソコンを入手して、部屋の模様替えをしたところだ。2台のモニターを並べ、その両脇にスピーカー。新しいパソコンでは音楽や映像の作業、前のパソコンではテキスト関係やメール。
 昨日は1日中ヘッドホンをかぶって音資料を聴いていた。もうすぐ、新たなミックス作業のためにスタジオに入ることになっている。

 そして、たまに1人でリハーサルスタジオに入って歌い、週に1回はAloma Black'sとリハーサルをやる。
 来週の土曜は、センチメンタル・シティ・ロマンスの中野督夫さんのバンド、ダリ督夫 & Almond Eyesと、Aloma Black'sでの共演ライヴがある。
 中野督夫さんとは、もう古い付き合いになった。アコースティックなライヴを2人でやったことは何度もあるが、それぞれのバンドでのジョイントは初めてだ。督夫さんとメールのやりとりをして、アンコールセッションの曲を決めているところだ。今からワクワクしている。きっと楽しい夜になるだろう。

 他にも、まだ発表前の新しいプロジェクトが進み始めている。今年いっぱいはこんな感じで日々が過ぎていくんだろうな。
 そしてもう、来年のライヴの話も出始めている。
 2009年は、年間で数えて、今までで一番多くライヴをやることになりそうだ。来年は、さらにそれを越えるライヴをやろうと思っている。
 僕の中に白地図があって、ライヴで行った県をひとつずつ塗りつぶしている。今年は岐阜と福井を塗れた。でもまだまだ白いままの県がいくつもある。
 まずは全部を塗ってしまわなきゃ。

10/15
love,
卓治


dear #109
 今週末、いよいよ〈唄旅 東北編〉で仙台と盛岡へ行く。
 仙台は2006年に〈唄旅〉で行って以来。盛岡は何と初めて。岩手県に入るのさえ初めてだ。
 今回は、お馴染みの鎌田ひろゆきと、盛岡出身の高橋研さんとの3人旅。このスリーショットでの旅も初めてだな。なんだか、すごくワクワクしてる。

 2006年、ひさしぶりに仙台に行った時は、小さなライヴハウスが満杯になった。昔から聴いてくれてる熱狂的なファンの人たちの熱い歌声が、今もはっきり耳に残ってる。「また来るよ」と言った約束を、3年ぶりに果たすことができる。

 盛岡は、どんな感じなんだろうな。実は今日、高橋研さんと鎌田ひろゆきと3人でセッションする曲のリハーサルをやることになってるから、研さんに聞いてみようと思ってる。
 岩手は、僕の大好きな詩人、宮澤賢治の故郷。花巻と盛岡はちょっと離れてるけど、風や空の色から、何か感じることができるかな。

 〈唄旅〉は、シンガーだけで動く、いわゆるノー・マネージャー・ツアー。別名、アーティストほったらかしツアー。
 ギターやCDを抱えて新幹線やバスのチケットを買って乗り、ライヴをやった後は自分たちでCDを販売する。
 普段、自分のソロツアーでは歌うことだけに集中してるけど、この旅はそうはいかない。
 そんな旅で、お荷物になるのが、僕。頼もしい存在になるのが。鎌田。
「かまたぁ、明日は何時に集合?」「かまたぁ、持ち時間はどのくらい?」「かまたぁ、CDはどこに並べんの?」
 鎌田もいい加減切れ気味なんだが、なんとか旅は続いてる。
 そこへ初登場の高橋研さん。多分、というか間違いなく、旅に出ると僕以上に使えない男だ。今度の〈唄旅〉は、僕と研さん2人して「かまたぁ」を連発するんだろうな。

11/11
love,
卓治


dear #110
 ここのところ、ずっとスタジオに入って作業をしていた。今までとは違うサウンドに仕上げたくて、ずいぶん時間をかけ、ついに完成。もうすぐ告知するからね。

 イベントへの参加や、〈唄旅〉でのライヴが続いていた。来週はひさしぶりにソロライヴで広島と熊本の多良木へ行く。

 広島は2年前に〈唄旅〉の3人で行って以来だ。
 ソロでや行った88年のこと。アンコールがやまずに、何度も出て行って歌った。さすがにもう来ないだろうと楽屋に戻って着替え、ステージもスタッフが撤収を始めた。それでもアンコールが収まらず、僕は普段着でステージに戻り、何もないステージでギターを生で弾いて、生の声で歌った。客席からの歌声が大きく熱かったのを、今もはっきり憶えている。
 その次に行った93年のライヴも、4回のアンコールを受けた。
 あれから16年たった。今回はソロだから、たっぷり歌うよ。

 熊本は、この夏にバンドライヴをやったが、多良木町で歌うのは、もちろん初めてだ。場所は多良木町 交流館 石倉。昭和10年くらいに米倉庫として作られ、今は多目的ホールとして使われている。最近、有形文化財に指定されたそうだ。
 石を積み重ねて作られた場所で、歌やギターがどんな風に響くのか、すごく楽しみだ。いつものライヴとはまったく違う雰囲気になるだろう。何を歌おうかな。

 多良木町にほど近い人吉出身の、犬童球渓という詩人がいる。アメリカ人のジョン・P・オードウェイが作った〈Dreaming of home and mother〉に訳詞をつけた。それが〈旅愁〉だ。

 更け行く秋の夜 旅の空の

 「あ、知ってる」って感じだよね。以前、ライヴで一度だけカバーしたことがある。唱歌のようにシンプルなメロディだけど、歌詞は意外に切ない。カバーするために改めて詞を読んだ時、2番の歌詞にぶっ飛んだ。

 窓うつ嵐に 夢も破れ
 はるけき彼方に 心迷う

 ほのかに故郷を想う歌だと思っていたが、実は旅先で途方にくれてる歌だったんだと思った。
 多良木の人たちにも、この歌はお馴染みなのかな。もう一度歌ってみよう。

11/30
love,

卓治



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