エイズを100倍楽しく生きる
  大貫武と12人の共同作業 コラボレーション
12.01.1995 

.企画・構成・執筆 大貫武・山下柚実・片野明
.径書房 12.01.1995 初版発行 2060円
.問い合わせ先:径書房 (03-3350-5571)


対談より抜粋

大貫 小山さんに曲を書いてもらいたい、と思ったのは、「イエロー・ワスプ」がきっかけでした。中国残留孤児二世の事件のことを歌うシンガーなら、僕のことも歌ってくれるかもしれない、そんな気がして。とても単純なんですけれど。
 それと僕、エイズ宜言をした故平田豊さんと親しかったんです。生前、平田さんが、あるシンガーに「黒いコスモス」という歌を作ってもらったことがある。それを聴いた時、「オレならもっとかっこいいやつができるぞ」と本気で思ってね(笑)。正直言うと、浜田省吾のファンでもあったんで、省吾と卓治と、どっちに頼もうかって悩んだんです。優柔不断ですいません。省吾の詩は、恋愛した時、失恋した時に聴く感じ。卓治の歌は、沈んでいる時、元気になりたい時に聴いてきたんです。
 で、省吾はちょっとなあ、今すごく売れているから無理かなあ、と。事務所に電話をしても、すぐに切られてしまうんじゃないか、と思って。小山さんなら、話をていねいに聞いてくれそうな気がして、電話をかけたんです。ありのまま言うと……。



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 電話でマネージャーの方に「僕はエイズなんです」って説明しました。そして事務所に伺って、「もし、可能なら元気づけてもらえるような歌を」ってお願いした。
 それから半年以上たって、曲が突然届いたんで、本当にびっくりした。見知らぬファンの依頼に対して、いったいなにを感じて作ってくださったのかなあって。

小山 最初、こういう男が尋ねてきた、と事務所から聞いてね、単純にびっくりしたんですよ。デビューして10年以上になるけれど、仕事以外で、個人的に曲を作ってくれ、といきなり尋ねてきたのは、実は大貫くんが初めてだったんです。「なんなんだ、この男は」って戸惑った。そして一部始終、話を聞いて、どうしようかと思った。断るのは簡単だけれど、よく考えてみたかった。
 そのころちょうど、平和のためのコンサートが開かれたり、ストップ・エイズ・キャンペーンでミュージシャンが肩を抱き合って、がんばろうって叫ぶようなチャリティー・コンサートが増えてきていたんです。僕はそういうのが大嫌いだった。というか、人と一緒に世の中のために、というのがどうも居心地悪かった。で、依頼がくると全部断ってきたんです。でも、断るのには理論武装が必要でしょ。だから、自分なりに理由を考えてみたんです。で、どうやら僕は、人と一緒にチャリティーとかやるのが、いやらしい。僕だったら1人でやるだろう、と。仲間を集めてどうのっていうのではなく、誰かに力を貸したいと思ったら、1人でできることに自分1人のカを貸せばいいんじゃないか、って。
 ちょうどそんな時に、大貫くんの話があったんです。僕はエイズに対して世間並みの情報しか持っていなかったし、特にエイズ問題に関心があったわけではなかった。だけれど、これはもしかしたら僕にできることではないか、という気がしたんですね。今までチャリティー・コンサートに出なかったけれど、もしかしたら、これこそが僕にできることなんじゃないかって。

(中略)

小山 大貫くんの曲を作ってみようという気持ちになったけれど、どういう曲にすればいいか、最初すごく悩んだんです。僕との接点が、いったいどこにあるのか、と。エイズそのものについて歌うべきか、血液製剤の間題について怒りをぶつけるような歌なのか。でも、怒りというのは、僕にとってリアリティがないな、と。それで、僕がウソでなく歌えるテーマはなんだろう、と考えた。ポンと肩をたたいて、「がんばれよ」って言えればそれでいいわけだけど、そんなことを言えるほど、僕はでっかい人間じゃない。
 彼には愛し合っている女性がいて、一緒に暮らしていると聞いたんで、そうか、すごく個人的な、彼と彼の愛する人、彼を理解してくれる周りの人だけのために、ラヴソングを作ればいいんだ、と気づいた。それだったら僕にも作れるだろうと。半年くらいかかったかな。やっと歌詞を書き始めたんです。
 ちょうど「Rocks!」というアルバムのレコーディングの最中でしたね。時間的には忙しい時期だったけれど、そういうことはあまり関係がないんです。熟したというのか、浮かんでくるものだからね。あの時は、歌詞とメロディがほとんど同時にできました。そういう形が一番いいんです。
 テーマが固まってからできあがるまでは早かった。たまたま当時、僕の部屋にいっぱい機材を持ち込んで「Rocks!」のデモテープを作っていたんです。だから、ギターのやつに「ちょっと仕事じゃないんだけれど、弾いてくれ」って。「この曲は真面目に。間違えるなよ」なんて言いながら。

大貫 いきなりカセットテープが届いた時、ギター1本の曲だろうなあ、と思ったら、ちゃんとレコーディングしてあったんでびっくりしたんです。ほんとに嬉しかった。


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(c)1995 Takeshi Oonuki,Yumi Yamashta,Akira Katano