LIFE
VEST UNDER YOUR SEAT
夜
そして夜
いつもの夜
クラクションの音がうるさくて
自分の考えも聞こえなくなる夜
ワルツを口ずさむ身の程知らずの信号
店の前でひっくり返ったショッピング・カート
横っ腹に亀裂の入ったビル
放りだされた自転車
むしり取られたナンバー・プレート
裸でほほえむマネキン
いつものようなにぎやかな気分は
シンデレラから3時間の遅刻で
なりを潜め始めた
オルゴールのふたを閉じたみたいに
サーカスが引っ越した後の広場みたいに
売り飛ばした魂の代償にもらった
指の切れそうな札束をめくる音に
俺はHarpで伴奏をつける
16小節のソロも入れて
本物に巡り会ったことなんて
1度もなかった
たくさんの握手を交わした
あいつらはいったいどこへ行っちまったんだろう
振り返るとおふくろが
まだドアの所で手を振っているのが見える
母さん 俺はまだ
悪人にさえもなれずにここにいるよ
俺は膝のかさぶたをはがし
夢とかいうものを
アスファルトに放り投げた
いつか雨がこいつを育ててくれるだろう
ビルの上から天使が俺に手招きしてる
「さあ ひと思いに飛びなさい」
俺は1人じゃ何もできない男だ
だけど
1人になるのは恐くなかった
おまけに俺は
生き続けることしか思いつかなかったんだ
I BEG YOUR PARDON
「払うものさえ払えば
あなたはなんでも手にすることができるのよ
受け取りなさい
さあ 受け取りなさい」
女は小指で俺に合図を送る
「あんたは勝利者になれるツラだ
俺が保証するぜ
予言の代償に
ほどこしを
ほどこしをくれ」
男はぶっ飛んだ目でニヤニヤ笑ってる
「哀しいの
慰めて
ねえ慰めて」
代償のない行為のために
俺はポケットに手を突っこんだが
自分の指しか見つからなかった
優しくするのにもされるのにも慣れてないし
慰めあうのには飽きちゃったんだ
ガラス窓の中のジンジャーエールの向こうに
君はいた
俺はガラスで
“卒業”のラストシーンをやって君を笑わせる
「出ておいでよ
そこには光(ネオン)が当たらない」
クリスマスにでもはくようなミニスカートで
君は俺に笑いかけてくれる
酔いどれロミオと
あばずれジュリエット
2人のサウンドトラックは
クラブバンドのスローなロック
そしてこの物語のナレーターは
しわがれロマンのピアニスト
予言のようなサクソフォン
ため息のようなホンキィトンク
君が何か言おうとした時
ビルのてっぺんに引っかかった月が
そっと君の唇に指を1本あてた
暗闇
ピアニシモの吐息
君に何か言ってあげたかった
でもこの意気地なしときたら
ひと言もつぶやけやしない
俺は詩人だったはずなのに
歌だって歌えたはずなのに
君は黄金のオブジェを胸に抱いて
俺に笑いかけてくれる
夢を見るのにも遅くない
朝刊が届くのにも
まだ間がある
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