Parts Vol.2


THE FOOL

「速いだけのストレートは
慣れてしまえばバッターにとって格好のえじきさ」
「あなたのカーブはよく曲がるものね」
言葉に出せば出すほど
態度で示せば示すほど
それは少しずつ嘘に近づいていく
「私は殻に閉じこもるわ」
「俺のお株を取らないでくれよ」

「羽をのばせば?」
「羽なんかないわ」
2人はそれぞれに注意深く
自分を除外した法律を作る
「俺の何が欲しいんだ」
「あなたの着古したジャケットになんかなりたくない」

2人は目に見えるものだけを信用し
見えないものだけを欲しがった
あげくに
男はグラスと世間話を始め
女は受話器と恋に落ちた

モノクロのスクリーンの中
男がつぶやく
「I love you」
スーパーはそれを
「サヨナラ」と訳した

同じ街の同じ通りに
ふたつのものが居合わせている
すれ違うこともなく
ぶつかりあうこともなく
だけど確かにふたつのものが
背中合わせにそこにある
だが1度ぶつかったら
それでもう終わり
誰もが勝者になれるゲーム
それは1人歩きだ

ARCADIA

ショーウィンドウの赤い
“CLOSE”のネオンに横顔を染めた君は
通りの向こう側に立ってた
俺をさとすようなほほえみを浮かべて
君は音もなく踊る
プリエ
パドヴレ
ターン ターン
アラベスク
信号はワルツを口ずさむ
アン・ドゥ……
君は
俺がずっと前にここで捨てた
夢のかけらだったんだろう?

ルーレットは止まらない
シルクハットは空っぽ


そして夜
いつもの夜
クラブバンドの連中も家路についた
オルゴールのゼンマイは切れ
自転車のスポークに
スペードのエースが突き刺さる
ほんの短い幻から
俺は目覚めた

街はもう夢を見るにはいい場所じゃない
だけど俺はここが好きなんだ

うぬぼれた街
恐いもの知らずの人間達
俺は腰抜けじゃない
受け取るだけの毎日なんてまっぴらだ
走りだせばまだ間に合う
汚れた手で
汚れた手で
つかみ取れ


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(c)1986 Takuji Oyama