センチとの再会 12.11.1999


 先月のこと。僕は新宿ロフトへ行った。その夜出演するセンチメンタル・シティ・ロマンスを見るためだ。
 知ってるよね、センチメンタル・シティ・ロマンス。僕の印象で言うと、日本のロックバンドの中で、初めてウェストコーストのサウンドを取り入れたバンドだ。キャリアはもう26年になる。僕のフェバリットバンドのひとつだ。
 余談だが、確かセンチと同じ時期に、金沢からT-Birdというバンドが登場した。彼らもまたウェストコーストサウンドのバンドだった。そのバンドのベーシストだったのが、5年近く僕とステージやスタジオを共にしたDADの山下好男、山ちゃんだ。

 僕はこれまでにセンチのステージを2度見たことがあった。最初は、まだ僕が熊本でアマチュアだった頃。友人から聴かせてもらったライヴ盤のサウンドが好きになってライヴに行った。そのコーラスワークの素晴らしさ、プレイの絶妙なバランス、軽快なフットワーク、どれを取っても惚れ惚れした。
 その夜、偶然にもセンチのメンバーが打ち上げをしている店に行き、彼らがリラックスしてお酒を飲みながら小さなステージでプレイしているのを、店の片隅で見ていたことを憶えている。
 2度目にセンチのステージを見たのは、センチの地元の名古屋だった。確か85年のことだったと思う。僕もツアー中で、その夜は移動日で偶然名古屋にいた。ハートランドでセンチのライヴがあると聞き、足を運んだ。
 それからさらに10年以上たった。

 ステージに登場したセンチメンタル・シティ・ロマンスは、あの時と何も変わっていなかった。正直なところ、ロートルになっちゃってるんじゃないかな、と少々心配もしていた。とんでもない! 歌もコーラスもプレイも、何ひとつ錆びついちゃいなかった。嬉しくてワクワクした。自分よりもキャリアの長い人たちが、こうして輝き続けている姿に、すごく勇気づけられた。
 その夜一緒に見にいった若いスタッフはセンチのことを知らなかったが、そのステージを見て驚嘆していた。
「すごいっすねえ! この手のサウンドのバンドは今まで聴いたことなかったけど、かっこいいですよ!」
 あったりまえさ、と人ごとながら自慢したくなった。その上このサウンドは、僕のルーツのひとつでもあるんだから。
 僕がアマチュアの頃組んでいたバンドは、全員がコーラスできるサウンドを目指していた。それはイーグルスやドゥービー・ブラザーズの影響もあるが、センチへの憧れがあったことも間違いない。

 その夜の新宿ロフトは、センチのギタリスト、中野督夫さんに招待してもらった。
 中野さんと最初に会ったのは、90年のことだ。当時、僕の友人の鎌田ひろゆきのステージで、中野さんがサポートとしてギターを弾いていた。その少し前に鎌田と歌を共作したこともあって、ひさしぶりに吉祥寺のMANDA-LA2に見にいったんだが、鎌田が突然ステージに僕を呼び上げ、一緒に作った歌を歌うことになった。その時初めて中野さんのギターと僕のギターがひとつのサウンドを奏でた。
 打ち上げの席で中野さんとおしゃべりし、「いつか一緒にやりたいですね」と話した。
 その後何度も、いろんな街のたくさんのステージで中野さんとすれ違ってきたが、一緒にやるチャンスは訪れなかった。

 新宿ロフトの2日後、僕は中野さんと渋谷の喫茶店で会った。
「僕のレコーディングで、ぜひギターを弾いてください」
 中野さんと一緒にギターを弾きながら歌うことを思うと、燃えてくる。それは僕の長年の夢のひとつだ。
 中野さんの快い承諾を得て、プロジェクトは発進した。
 そしてつい数日前、2人でスタジオに入った。興奮と刺激に満ちた数時間だった。中野さんのシャープなギターが歌に切りこんでくる。時に静かに包みこむ。アイデアはどんどん膨らみ、歌の奥行きが広がっていく。
 本当に素晴らしいプレイヤーとは、歌を聴いただけで、ソングライターの音楽的なバックボーンや方向性、さらには、その歌を作らなければいけなかった必然性までをも感じ取れる人だ。
 中野さんは、ギターで僕に答えてくれた。
 具体的なことはまだ決まっていないけれど、そこで生まれたサウンドを聴いてもえれる日が来るはずだ。

 先日、Yohji Yamamotoの店で一目惚れしたコートを買った。それを着て街を歩きたくて、「早く寒くならないかな」なんて思っている。
 去年ロンドンに行った時には、Allegriのコートを着ていった。だけどロンドンに着いてから、カーナビー・ストリートのインド人が経営している店で、パキスタン製の革ジャン(べらぼうに安かった!)を買った。知らない街を歩くには、ロングコートだと歩きにくい。いざって時にダッシュできないし、地べたに座れない。
 肌寒いこの時期は、好きな季節だ。コートを羽織ってブラブラと歩くことが多くなる。
 例えば新宿だと、高島屋タイムズスクエアの横のボードウォークを歩き、東急ハンズでちょっとした買い物など。それから紀伊国屋まで歩き、新刊のコーナーなどを流して1、2冊買いこむ。本を持ってJRの線路を渡り、ホテルセンチュリーの前を通ってスターバックスのカプチーノを買う。テーブルが空いていない時は道沿いの花壇の枠に腰かけて、本をめくりながらカプチーノをすする。
 歩いている時にアイデアが浮かぶことが、不思議によくある。部屋の中で頭をひねっていても出てこないフレーズや言葉が、歩いているとポコンと音をたてて頭のなかに現れる。そういう時はどうなるかというと、辺り構わず座りこんでポケットから小さなノートを引っぱり出し、走り書きを始める。アイデアが詰まると、また歩きだす。そんな時は、自分がどこへ向かって歩いているのかも分からなくなる。最悪、道に迷ったりもする。アイデアが浮かぶと、思わずニヤッと笑ったり、そのフレーズを口に出してブツブツ独り言みたいにつぶやいていたりする。はたから見ていると、きっと気味が悪いだろう。もしそんな時に僕を見かけても、どうか声をかけないで欲しい。

 次にこのコーナーを書くのは、もう来年のことになる。来年はきっと、新しいニュースを届けることができると思う。待っていてくれ!


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(C)1999 Takuji Oyama