ボブ・ディランの新しいCD《BOB DYLAN LIVE 1975 THE ROLLING THUNDER REVUE》、聴いたかな? 僕はもう完全にぶちのめされた! 神がかったテンションを持続するディランのボーカル、恐ろしいまでの緊張感を持つプレイ。今までにたくさんリリースされているディランのライヴ盤の中で、これほどまでにステージ上のディランの魔法を再現したライヴ盤はないと僕は思う。まったく信じられない。こんなに素晴らしくものすごいことが1975年に起きていただなんて。
1975年といえば僕は18歳で、初めてディランのアルバム《Blood on the Tracks (血の轍)》を聴いた、いわばディラン元年だ。僕の年代としては、その出会いは遅い方だろう。ボブ・ディランという名前は知ってはいたし、歌もラジオから流れてきてはいたが、アルバムを買ったのはそれが最初だった。それからは、取りつかれたようにディランの歴史をデビューまで遡り、アルバムを買いあさった。翌年リリースされた《Desire(欲望)》《Hard Rain(激しい雨)》を聴いた時には、僕の中のロックという概念がひっくり返った。
《Hard Rain(激しい雨)》は、今回のCDと同じTHE ROLLING THUNDER REVUEを記録したライヴ盤だが、1976年のもので、実はその前年の1975年のライヴはもっともっとすごかったという噂は聞いていた。そのライヴがついに登場したというわけだ。
その後の僕にとってのディランは、1983年の《Infidels》でまたしびれさせてくれたものの、出会った頃のディランを感じることはなかった。日本でのライヴも何度も見たが、がっかりすることの方が多かった。去年リリースされた《"Love and Theft"》を聴いた時には、「このオヤジ、そろそろ死んでくれないかな。このままダラダラとアルバムを出して、世界中をダラダラとツアーやってても見苦しいだけじゃないか」とまで感じてしまった。
しかし今回のCDを聴いた後、改めて《"Love and Theft"》を聴き返してみた。そこにはゾッとするような声と歌があった。60歳を過ぎてなお、あきらめも達観も衰退もなく、言葉はどこまでも鋭くぎらついていた。ただ、死の匂いがした。
ごめん、前言撤回。「死んでくれ」なんてとんでもない。僕にはまだあなたの歌が必要だ。
1975年のこのライヴを、今のディランにもう一度再現して欲しいなんて思わない。その瞬間にしかやれなかった、あり得なかったライヴを今こうして聴ける喜びを、ただ感じている。