2015年は、3枚のシングルをリリースした。今はその流れで次のアルバムの準備に入っているところだが、今年2016年のうちに、どうしてもリリースしておきたい曲があった。それが〈美しい沈黙〉だ。
この歌を作ったのは1995年、21年前のことになる。まずはそのいきさつを説明したい。1996/8/23、東京 下北沢 Club Queのライヴで、この歌を歌う前に話したことを文字にしたので、読んでほしい。
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今夜はみんなに聞いてもらいたい話がある。
数年前、僕のところへある男がやって来て、曲を作ってくれないかっていう突然の依頼があった。
彼の名は大貫君(仮名)といって、子供の頃から血友病で、そのために血液製剤を打っていたんだけど、それが非加熱だったせいでHIVに感染してしまった。感染したと知って、彼は改めて強く生きていく決心をしたらしい。そしてそんな自分を励ましてもらうために、曲を作ってくれないかと依頼してきた。
ずいぶんとんでもない頼みだとは思った。断るのは簡単だけど、僕にできることがあるかもしれないと考えてみて、彼のために曲を作ることに決めた。
だけど、どんな風に曲を作っていいか、すごく迷った。例えば肩をポンと叩いて「何とかなるさ」って曲を作ってもよかったんだけど、僕にはとてもそんな曲は作れない。彼と僕にどんな接点があるだろう、僕に作れる歌はどんな歌だろうって、しばらく悩んだ。
彼はHIVに感染する前から恋人がいて、一緒に暮らしてるって話を聞いてた。だったら彼と彼女と、そして彼の周りにいる身近な理解者のための希望の歌を作りたいと思い、ラヴソングを作った。
〈美しい沈黙〉ってタイトルをつけて彼に送った。彼がその歌を喜んでくれるかどうか、自信がなかった。もしかしたらその曲で、余計に彼のことを傷つけてしまうかもしれないと思った。でも、彼はすごく喜んでくれた。
ある日のコンサートが終わった後、僕は初めて彼と握手を交わした。その曲が彼の人生の希望の歌になったと聞いて、すごく嬉しく思った。音楽の力が1人の人間を元気づけ励ますことができるっていうことが、すごく嬉しかった。
しばらくたって、彼は僕に「本を作りたいんだ」って話をしてきた。いろんな人と対談して、その対談集って形で本を出したいと。僕は承知して、彼に会いに行った。場所は彼が入院している病室で、僕は彼といろんな話をした。
その本は『エイズを百倍楽しく生きる(径書房)』ってタイトルで出版された。このタイトルは彼なりのジョークで、強く生きていくんだっていう決心の意思表示だったんだと思う。
去年、ちょうどその本ができあがった頃、12月1日の国際エイズ・デーに、彼に誘われて早稲田大学の講堂のステージで、彼と、彼と一緒に本を作ったライターの山下柚実さんと、ボランティアの大学生とで話をした。そしてそこにあったピアノで、初めて彼のために〈美しい沈黙〉を歌った。歌が終わった後、彼は僕に抱きついて喜んでくれた。
「また会おう」って約束して、別れた。
そして。
今年の6月22日、彼は逝ってしまった。30歳だった。恋人と結婚の約束をして、彼女の誕生日に入籍しようって決めて、彼が逝ったのは彼女の誕生日の3日前だったそうだ。
彼が逝ったと聞いて、最初に感じたのは、哀しみなんかよりも、むしろ怒りだった。彼は殺されたんだと思った。
自分の親しい人間が先に逝っちゃうっていうのは、すごくたまらない気がする。改めて、自分が生きていることの意味を考えさせられたり、自分がやり遂げていないテーマを突きつけられる気がする。
彼が逝った夜、彼の友人たちは彼の周りに集まって〈Passing Bell〉のようにシャンペンを抜いて、最後まで強く明るくポジティブに生きた彼を、乾杯で見送ったっていう。僕もそんな風に彼を見送りたいと思う。
追悼なんて言葉が似合わないような男だった。多分今頃、天国辺りで元気な体になって、僕たちを見下ろして、「何しんみりしてんだよ」みたいに笑ってると思う。
今夜は彼のために作った歌を、もう一度歌いたいと思う。彼のために、そして彼が愛した人たち、彼を愛した人たちのために歌う。みんなにも聴いてほしい。
(1996/8/23 at 下北沢 Club Que)
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〈美しい沈黙〉は大貫君のために作って贈った歌だから、僕のライヴで歌ったのはこの夜と、2007年の〈全曲披露ライヴ〉の時だけだった。
彼が亡くなって20年。そろそろ歌を解放してあげたくなった。去年からライヴで取り上げるようになり、20年後の今年、リリースすることにした。
大貫君も、きっとそれを望んでいると思う。
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〈美しい沈黙〉Words & Music : 小山卓治
2016年10月1日リリース
ライヴ会場、Amazonにて発売
01.美しい沈黙
02.美しい沈黙(Off Vocal)
03.美しい沈黙(Live version)
2016/4/8 大坂 Another Dream
04.ばあちゃんごめんね(Live version)
2016/4/22 東京 高田馬場 Live Cafe mono
05.ハヤブサよ(Live version) [with Mercy]
2016/3/26 東京 江古田 marquee
Produce : 河村博司
Vocal & Chorus : 小山卓治
Piano & Chorus : 信夫正彦
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