新しいチャレンジ” 10.14.2006


 デビューして23年、僕の一番の表現の場所は常にライヴだった。そこから生まれた歌、そこで築かれていったファンの人たちとのコミュニケーション、それが僕の大切な宝物になっている。
 ライヴ盤をリリースして欲しいというリクエストは、いつももらっていた。
 たくさんのライヴの中から、僕とファンの人たちにとって思い出深いテイクを集めて、《Bootleg!》というライヴベスト盤のリリースを去年の6月から始めた。「Bootleg」には、海賊版という意味がある。
 ハードとネットワークが発達したことで、音楽は作ったその日に手渡しできるほど、作り手と聴き手との間の距離を縮めた。何ものにも縛られない自由な発想が可能になった。
 フットワークをフルに活用できる新しい方法論で作った《Bootleg!》は、僕の正式なライヴアルバムだ。
 さらに、この《Bootleg!》は、ライヴへのインビテーションでもある。
「昔はよくライヴに行ったけど、最近は忙しかったりで足が遠のいちゃってます」
「懐かしいライヴの音を聴けて、あの頃のことが蘇りました」
 そんな便りを、《Bootleg!》を買った人たちから多くもらった。
 時間と余裕ができたら、ぜひライヴ会場に遊びに来てほしい。僕は何も変わっていない。そしてライヴ会場には、“あの時”の君がいるはずだ。

 《Bootleg!》を買ってくれた人から、RED & BLACKに掲載しているものより、もっとくわしいライナーノーツが欲しいというお便りをたくさんもらった。ここでは1枚ずつ、当時の思い出なども交えながら書いてみようと思う。

《Bootleg! Vol.1 with The Band》
01.PARADISE ALLEY (2001/12/2 with New Band 渋谷 On Air West)
02.DOWN (2001/12/2 with New Band 渋谷 On Air West)
03.カーニバル (1983/7/1 with The Conx 下北沢 本多劇場)
04.これでも食らえ! (1995/12/14 with BACCHUS 渋谷 On Air West)
05.最終電車 (2002/9/27 with New Band 渋谷 On Air West)
06.Bad Dream (1986 with DAD Studio Live)

 センチメンタル・シティ・ロマンスのギタリストの中野督夫さん、ベースのスティング宮本、キーボードのたつのすけ、15年ぶりに再会した、当時The Conxでドラムを叩いていたカースケの4人のメンバーでのライヴテイクで、〈PARADISE ALLEY〉〈DOWN〉〈最終電車〉を収録した。このライヴで生まれたグルーヴとサウンドで、アルバム《種》をレコーディングするという理想的な流れだった。この時期のライヴ映像は、DVD《MANY RIVERS TO CROSS》で見ることができる。
 〈カーニバル〉は、僕の記念すべきデビューライヴのテイクで、2年間を共にした盟友The Conxとのライヴだ。僕の声はまだ若く、演奏は溌剌としている。
 〈これでも食らえ!〉は、アルバム《ROCKS!》のレコーディング後に結成したバンド、BACCHUSとのテイク。94年から95年の短い活動期間のバンドだったけれど、僕は彼らとのサウンドがとても好きだ。
 〈Bad Dream〉は、85年から89年までレコーディングを共にし、全国を一緒に走り回ったDADとのスタジオテイクだ。

《Bootleg! Vol.2 Acoustic》
01.Show Time (2000/9/9 with 中野督夫,スティング宮本 渋谷 On Air West)
02.前夜 (2002/6/16 with HONZI 赤坂 グラフィティ)
03.孤独のゲーム (1999/12/24 渋谷 Nest)
04.ついてねえや (2000/6/21 with 梅津和時 千葉 Look)
05.裏窓 (1999/12/24 渋谷 Nest)
06.グッバイガール (1991/8/26 with 島山信和,金森佳郎 新宿 Power Station)

 アコースティックサウンドを集めたものだ。〈Show Time〉はギター2本とベースのみだが、そのアンサンブルやコーラスワークは、前述した《種》レコーディングメンバーへとつながっている。
 〈前夜〉は《Operetta Of Ghosts Part 3》でコラボレーションしたバイオリニストのHONZIとのセッション、〈ついてねえや〉は《Operetta Of Ghosts Part 1》に参加していただいたサックスの梅津和時さんとのセッションだ。どちらもしびれるフレーズで歌を彩ってくれている。
 〈孤独のゲーム〉は、アルバムでは熱いサウンドにくるまれているが、ここではギター1本で歌を裸にした。ギターだけでグルーヴを出すことは可能だ。長い間ギターだけでツアーを回ってきて、僕はその答を見つけた。それがここにある。
 〈裏窓〉も、アップテンポのアレンジを一気にスリーフィンガーに凝縮した。こんな方法も確かにある。
 〈グッバイガール〉は、アルバム《花を育てたことがあるかい》に収録した〈さよなら恋人〉の原曲のようなテイクだ。レコーディング前で、歌詞も今とはかなり異なる。船出をする男の歌だ。

《Bootleg! Vol.3 with The Band》
01気をつけた方がいいぜ (1986/12/2 with DAD 渋谷 Live Inn)
02.FILM GIRL (1983/8/3 with The Conx 北海道 真駒内スタジアム)
03.下から2番目の男 (1986 with DAD Studio Live)
04.俺は帰って来たんだ (1991/8/26 with 90's Band 新宿 Power Station)
05.Escape (2001/12/2 with New Band 渋谷 On Air West)
06.花を育てたことがあるかい (2001/12/2 with New Band 渋谷 On Air West)

 〈気をつけた方がいいぜ〉は、〈Go To Zero〉とタイトルをつけ、それまでにリリースした4枚のアルバムの曲をすべて歌いきる、という企画で渋谷Live Innでやったライヴのオープニング曲だ。キーボードードのミック三国がプレイしたオープニングテーマも収録している。
 〈FILM GIRL〉は、デビューの年にRCサクセションなどのフロントアクトをつとめた北海道のスタジアムライヴから。ほとんど僕のことを知らない2万人のお客さんの前で喉を振り絞った。記録的な猛暑の日で、ライヴ後に楽屋でシャツの汗をしぼった記憶がある。
 〈下から2番目の男〉はDADとのスタジオライヴ。
 アルバム《成長》のレコーディング直後のライヴテイクで〈俺は帰って来たんだ〉。このライヴでは、リリース前の新曲を、初お披露目のバンドと共に全曲歌った。
 〈Escape〉〈花を育てたことがあるかい〉は、前述の《種》レコーディングメンバーとのライヴだ。

《Bootleg! Vol.4 Acoustic》
01.Bara-Bara (1997/10/7 with 島山信和,スティング宮本,丹菊正和 新宿 Power Station)
02.談合坂パーキングエリア (1990/3/31 with チンタ,タコ 九段会館)
03.Shadow Land (2000/2/27 with 中野督夫,スティング宮本 渋谷 On Air West)
04.紫の夜明け (1999/5/11 渋谷 On Air West)
05.壊すなら1秒 (1997/10/7 with 島山信和,スティング宮本,丹菊正和 新宿 Power Station)
06.Rock'n Roll's Over (2004/3/3 with SMILEY 大阪 南堀江 Knave)

 〈Bara-Bara〉は未発表曲だ。BACCHUSのメンバーとレコーディングする計画もあったが、かなわなかった。
 〈談合坂パーキングエリア〉は初演のテイクで、“もしあんたが私のことを好きでいてくれるなら”と、女性が主人公の詞になっている。
 〈Shadow Land〉では僕はピアノを弾いている。88年の〈Tour '88 Meeting Across〉から、ステージでピアノを弾き始めた。この曲はピアノで作った曲だ。
 〈紫の夜明け〉は、12弦ギターをオープンチューニングにして弾いている。当時ブルース・スプリングスティーンが展開していたソロライヴに大きく影響を受けた。
 〈壊すなら1秒〉も、アルバムアレンジとはまったくアプローチが違う。ルーズなリズムをベースとパーカッションがうねらせ、ミディアムテンポで歌っている。
 〈Rock'n Roll's Over〉は、The Conxの頃から一番つきあいの長いサックスプレイヤーSMILEYと2人のテイクだ。ひょうひょうとしたキャラクターとは違い、SMILEYのサックスはとてもブルーな音色を出す。

《Bootleg! Nagano Edition 小山卓治&鎌田ひろゆき》
01.真夜中のボードビル : 小山卓治 (2004/12/18 with SMILEY 蔵前 KURAWOOD)
02.Night After Night : 小山卓治 (2005/4/23 京都 都雅都雅)
03.ハーネス : 鎌田ひろゆき (2005/5/21 with 西脇一弘 吉祥寺 MANDA-LA2)
04.ラフスケッチ : 鎌田ひろゆき (2005/5/21 吉祥寺 MANDA-LA2)
05.予感 : 鎌田ひろゆき&小山卓治 (2005/8/1 Studio Live)
06.傷だらけの天使 : 小山卓治&鎌田ひろゆき (2005/8/1 Studio Live)

 2005/8/13、僕は鎌田ひろゆきと一緒に初めて長野でライヴをやった。その時に作ったものだ。互いのライヴを2曲ずつと、スタジオセッションを2曲収録している。
 〈真夜中のボードビル〉は、アルバムアレンジとはまったく変えて、ミュートしたギターで歌い、SMILEYのサックスが危険にからんでくる。
 〈Night After Night〉は、アルバムではエイトビートのミディアムテンポだが、ここではスローなスリーフィンガーで歌っている。
 鎌田とのセッションの〈予感〉は、僕と鎌田で共作した曲で、僕がメロディを書き、鎌田が詞を書いた。1995年に鎌田のアルバムに収録された。ここでの演奏では僕はピアノを弾いている。

《Bootleg! Vol.5 featuring SMILEY》
01.Hustler (2004/3/3 with SMILEY 大阪 南堀江 Knave)
02.汚れたバスケットシューズ (2004/3/4 with SMILEY 名古屋 TOKUZO)
03.そして僕は部屋を出た (2004/3/3 with SMILEY 大阪 南堀江 Knave)
04.Once (2004/3/4 with SMILEY 名古屋 TOKUZO)
05.下から2番目の男 (2004/3/3 with SMILEY 大阪 南堀江 Knave)
06.いつか河を越えて (2004/3/3 with SMILEY 大阪 南堀江 Knave)

 サックスのSMILEYは、僕の多くのアルバムでサックスを吹き、数限りないライヴに参加してくれた。
 最近では、年末になると必ずSMILEYと2人でライヴをやるのが恒例になってきた。
 そんなSMILEYとの、2人だけのライヴから6曲をセレクトした。
 アップテンポの曲では、2人の体に染みついているバンドのグルーヴが歌を彩り、懐かしいフレーズが蘇っている。バラードでは、SMILEYならではの切ないフレーズが歌を包んでいる。
 〈汚れたバスケットシューズ〉は、歌詞を変えて歌っている。

《Bootleg! Special One Night》
 2005/12/16 蔵前 KURAWOOD
01.オリオンのティアラ
02.MC1
03.Heart Attack
04.FILM GIRL (with SMILEY)
05.MC2
06.結晶 (with SMILEY)
07.MC3
08.いつか河を越えて (with SMILEY)
09.MC4
10.Night Walker (with SMILEY)
11.Aspirin (with SMILEY)
12.MC5
13.紫の夜明け (with SMILEY)

 1回のライヴテイクをまとめて収録したのは、これが初めてだ。
 前半2曲はソロのテイク。〈オリオンのティアラ〉は新曲で、まだレコーディングしていない。
 〈FILM GIRL〉のイントロでSMILEYが登場して、客席が大いに沸いた。
 後半の3曲は、2人だけのロックバンドみたいな音を出している。
 また、このライヴは、僕のオフィシャルファンコミュニティーの1周年を記念したライヴで、ネット中継もやっていた。リアルタイムで送られてくるメールを読んだり、SMILEYとのかけ合いみたいなMCが22分も収録され、全部で60分を越えるボリュームになっている。
 SMILEYと2人のライヴでは、MCは欠かすことができない。曲と一緒に、おしゃべりも楽しんでほしい。

《Bootleg! Live at Kumamoto》
 2006/3/18 BATTLE STAGE
 Takuji Oyama with COCK'S feat. SMILEY
01.PARADISE ALLEY (with COCK'S)
02.Soulmate (with COCK'S)
03.汚れたバスケットシューズ (with COCK'S)
04.DOWN
05.手首
06.FILM GIRL (with COCK'S feat. SMILEY)
07.Night Walker (with COCK'S feat. SMILEY)
08.Aspirin (with COCK'S feat. SMILEY)
09.下から2番目の男 (with COCK'S feat. SMILEY)
10.MC
11.傷だらけの天使 (with COCK'S feat. SMILEY)

 大分在住のバンドCOCK'SとSMILEYとの熊本でのバンドライヴを1枚にまとめた。
 前年の2005年、COCK'Sのボーカル藤澤一郎君の招きで、彼が教鞭を取る大分県立三重高校の文化祭でCOCK'Sと共演したことが、このライヴにつながった。
 COCK'Sはアマチュアとは思えない溌剌としたプレイを聴かせてくれる。アレンジは、The ConxやDADのプレイをベースにして、一番新しいバンドのアレンジを加え、まさに僕がやりたいと思っていたプレイだった。
 SMILEYのフレーズも、当時を彷彿されるものが多い。
 僕はこのライヴを心から楽しんだ。熊本だけのライヴだったから、2006年12月29日に、東京でこのメンバーでのライヴを再現する。
 また、この《Bootleg!》から、オリジナルジャケットのダウンロードを始めた。

《Bootleg! Vol.6 with The Band》
01.HEAT OF THE NIGHT (1984/6/11 with The Conx 札幌 道新ホール)
02.1 WEST 72 STREET NYNY 10023 (1984/6/11 with The Conx 札幌 道新ホール)
03.微熱夜 (1986/1/11 with DAD 日本青年館)
04.Blind Love (1986/7/31 with DAD 後楽園ホール)
05.Lucky Guy (1995/2/24 with BACCHUS 横浜 CLUB 24)
06.ついてねえや (1995/12/10 with BACCHUS 大阪 Club Quattro)

 84年の札幌でのライヴは、僕にとっても懐かしいサウンドだ。〈HEAT OF THE NIGHT〉は、当時の熱気が蘇ってくる。ステージ中を走り回って、最後はSMILEYと客席に飛びこんでいた。
 〈1 WEST 72 STREET NYNY 10023〉は、リアレンジして、ロケットマツのピアノから始まり、バンドが入ってくるアレンジだ。
 DADとの〈微熱夜〉は、ファンの人からのリクエストに答えて収録した。ライヴテイクながら、初のCD化だ。
 〈Blind Love〉はシングルカットされたから、知ってる人も多いと思う。
 〈Lucky Guy〉は、BACCHUSによって、まったく違うイメージに生まれ変わった。島山君のギターとSMILEYのサックスが吠えている。
 〈ついてねえや〉は、まさにBACCHUSでしか出せないサウンドだ。
 ここに収録したバンド、The Conx、DAD、BACCHUSの連中は、僕にとって愛すべきSoulmateたちだ。

《Bootleg! Vol.7 Acoustic》
01.このままじゃいけない (1996/12/13 with 島山信和,スティング宮本 渋谷 Nest)
02.紫の夜明け (2003/8/9 江古田マーキー)
03.ひまわり (2002/9/16 名古屋 Club Quattro)
04.Midnight Primadonna (2001/1/21 with 中野督夫 大阪 心斎橋 Club Quattro)
05.手首 (2001/5/1 with 中野督夫,スティング宮本,本多 taco-bow 正典 渋谷 On Air West)
06.青空とダイヤモンド (2001/5/1 with 中野督夫,スティング宮本,本多 taco-bow 正典 渋谷 On Air West)

 〈このままじゃいけない〉は、〈夕陽に泣きたい〉の原曲ともいえる曲で、高橋研さんと共作する前に何度かライヴで歌った時のテイクだ。メロディも歌詞も違い、大サビもある。
 〈紫の夜明け〉は、このシリーズでは3度目の登場になる。ここでは僕のピアノの弾き語りのテイクだ。
 これまでに収録した曲すべてで、アレンジを何度も変えるのは、歌にそれだけの可能性を感じるからだ。ライヴでは、あらゆる方法でアプローチする。
 〈ひまわり〉は、ギターとハーモニカをプレイしている。このシリーズでハーモニカのプレイを収録するのは初めてだ。
 中野督夫さんと2人での〈Midnight Primadonna〉も、アルバムとはイメージを変え、より繊細なイメージにしている。
 〈手首〉〈青空とダイヤモンド〉のマキシシングルに収録した曲のライヴは、ギター2本、ベース、パーカッションという編成だ。〈手首〉はライヴならではの荒削りなグルーヴが表現されている。

《Voice 1990-2005 CD BOOK》

 これはライヴではなく、僕が書いたエッセイをまとめたCD BOOKだ。パソコンで見れるように作った。
 今のオフィシャルファンコミュニティーONEが生まれる前、1989年から2005年まで、OFFというファンクラブを運営していて、3ヶ月に1度発行する会報に、ほぼ毎回エッセイを書いていた。
 会報は61号を数え、32歳だった僕は47歳になった。その間、一番身近なファンの人へ向けて語りかけるように、その時々の自分を吐露していった。雑誌のインタビューやラジオ出演などでは、決して言わなかったようなこともたくさん書いてきた。
 単行本に換算して、ほぼ310ページ分の膨大な内容になった。
 また、書き下ろしのエッセイと全会報の表紙の写真を特別付録として収録した。

 
《Bootleg!》シリーズは、とても自由な発想から始まったものだ。今後もフットワークを持って続けていきたいと思う。
 クエストに答えて収録した曲もある。今後もリクエストを待っている。



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