ただ、歌がある 02.01.2007


 去年の11月、京都で浜田裕介君のイベントにゲスト出演した。
 浜田君は、インディーズだが何枚かのアルバムを出していて、6年前に、やはり彼の招きで京都でのイベントに山口岩男君と共にゲスト出演したことがあった。その後、浜田君は故郷高知に戻り、まったく音楽から離れて暮らしていたという。紆余曲折あったらしいが、最近また歌い始め、ひさしぶりのライヴということだった。

 アマチュア主催のイベントに出演することに、僕のスタッフは二の足を踏んでいたが、僕の耳には、6年前に聴いた彼の歌声が残っていた。プロの立場から言ってしまえば、彼はアマチュアの域から出ていない。それでも彼の歌を忘れなかったのは、そこに何か、僕と同じ匂いを感じてしまったからかもしれない。

 イベント当日、客席には彼を見に来ていたファンの人たちもたくさんいた。僕は着替えをすませて、彼の1時間のライヴを客席から見ていた。綺麗なメロディライン、独特のハイトーンと絞り上げるシャウトで、必死になって歌を伝えようとする姿を見ていた。「小山さんから影響を受けた」と言ってくれる彼の歌には、確かに僕の歌に共通するものがあった。
 本番前に彼は「ガチンコ勝負だ!」と豪語していたが、僕は、お互いの歌が共鳴し合えるようなステージになればいいなと思っていた。そしてその夜は、とても素敵な時間が流れた。アンコールでは、お互いの歌をセッションした。

 アマチュアと同じステージに立つからといって、僕は決して手を抜いたりせず全力で歌う。それが礼儀だ。ステージに立てば、プロもアマもない。その瞬間に、目の前にいるお客さんに歌をどれだけ伝えられるか、それだけだ。僕を見に来てくれたお客さんの中で、彼の歌を好きになった人は多かったと聴く。とても嬉しいことだった。

 仕事をしながら歌い続けることは大変なんだろうと想像する。しかし、だからこそ生まれてくる歌もあるはずだ。「この歌で一発当ててリッチな暮らし」なんてスケベ心を出さず、自然体で今のままのスタンスで歌い続けてほしい。そこでの戦い方は僕とは違うが、音楽そのものに違いはない。垣根はない。上も下もない。ただ、歌があるだけだ。

 12月29日、2年9ヶ月ぶりのバンドライヴは、大分のバンドCOCK'Sとの共演だった。
 彼らはそれぞれ仕事を持ったアマチュアバンドだ。このVoiceの「23年目の“初めまして” 07.25.2005」で書いたようないきさつがあり、去年の3月に僕は再び大分を訪れて彼らとプレイし、その後、熊本ではCOCK'SにサックスプレイヤーのSMILEYを加えてライヴをやった。
 その熊本だけで実現したバンドライヴを東京でやるため、彼らを大分から呼んだ。

 ライヴに来てくれたファンの人たちの中には、僕がアマチュアバンドとライヴをやることに疑問を感じていた人もいたという。だが、ライヴが終わった時には、多くの人たちがCOCK'Sのプレイに満足してくれたようだ。

 新曲の〈オリオンのティアラ〉をCOCK'Sとプレイした。まだアコースティックバージョンしかなく、初めてバンドサウンドでやったことになる。
 ライヴの1ヶ月ほど前、僕からアレンジの提案をし、COCK'Sがリハーサルした音源を何度も送ってもらい、メールでアレンジを修正し、本番前日のリハーサルで音を固めていった。
 一緒にやる限り、単なるコピーバンドとしての彼らとプレイしたくはなかった。もちろんこれまでのステージの中で、彼らなりの提案でアレンジを変えたところもあったが、象徴として、まったく新しい曲でのコラボレーションをしたかった。

 COCK'Sと同じステージに立つのは、今回で5回目になる。客席に向かって放射する空気とは別に、ステージの中でコンタクトし合う濃密な空気は、すでに僕をボーカリストとするバンドというものになってきた。
 もちろん足りないものはたくさんある。荒くれたプレイは得意とするが、ミディアムテンポでのグルーヴはまだまだ足りない。
 終演後、ボーカルの一郎君にこんな話をした。
「熊本でのライヴは、80パーセントの演奏で、お客さんに120パーセント伝わった。今回は70パーセントの演奏で、お客さんに110パーセント伝わった。どちらも100パーセントを越えたライヴをお客さんに届けることができたけど、演奏は100パーセントじゃなかった」
 逆のこともある。プロフェッショナルとして100パーセントのプレイをしても、お客さんに伝わらないことだってある。
 ライヴのおもしろさで、恐さでもある。

 COCK'Sのプレイは、僕が今までやってきたバンドサウンドをすべて融合させたアレンジだ。彼らのプレイの中に、The Conxがいて、DADがいて、中野督夫率いたバンドがいる。そこに、今だからこそ表現できる新しいテイストを込めていった。
 僕が年齢を重ねて変化してきたのと同じように、歌も変化し続けてきた。だからアルバムアレンジを再現することに意味はない。ただ今回は、COCK'Sとのプレイの中で、懐かしい息吹を感じることができた。心から楽しかった。その気持ちが、きっとお客さんにも伝わったと思っている。

 今では、プロとアマチュアという区別自体が意味をなさなくなってきている。誰でもCDを出せるし、CDを出すことだけが表現方法ではなくなった。
 違いがあるとすれば、それは心の底から人を揺り動かすか、そうでないかだ。

 浜田裕介君、COCK'Sのみんな。これからもそれぞれの立ち位置で音楽を愛し続けてほしい。
 そして僕は、君たちを揺さぶる歌を作り続けようと思う。


※今回掲載されたエッセイは、メールで配信されている「小山卓治News!!!」の中で、リアルタイムで書かれてきたショートエッセイ〈dear〉の内容を加筆修正して掲載した部分もあります。

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