花を育てたことがあるかい?
 | 1. 花を育てたことがあるかい | 2 . 夜を行く | 3 . そして僕は部屋を出た | 4 . さよなら恋人 |
 | 5 . 前夜 | 6 . 天使の歌う朝 | 7 . 負けないで | 8 . 孤独のゲーム | 9 . 祈り |


cover まるで青臭いことを言うと思うかもしれないが、君に聞いて欲しいことがあるんだ。初めて君を見た時に、僕は君に恋をした。その気持ちを今から君に伝えようと思う。
 僕は恋があまり得意な方じゃない。しかもそれを直接伝えることはとても気恥ずかしいと思っている。でも伝えなければ何も始まらないから、勇気を出して君に話しているんだ。

 すべては一瞬に始まった。それが恋だと僕にはすぐに分かった。僕がそれを君に伝えるためにはたくさんの障害があったが、少しも気にならなかった。だから君もそんなことは考えないで欲しい。
 うぬぼれかもしれないけれど、その瞬間に僕が感じたものを君も感じていたと思う。濃密な空気が流れた。それを愛と名づけることができると信じた。

 愛は瞬間に生まれる。でも愛は育てなければいけない。生まれっぱなしの愛は赤ん坊のようなものだ。自我の固まりで、求めることしかできない。そんな愛は一晩でしぼんでしまう。僕らはそんなはかない出会いや事件をくり返しながら、今までこの街で何とか生き延びてきた。でも、もうそろそろしっかりとこの手につかめるものが欲しくなったんだ。僕はこの愛を育てたい。

 僕は君に告白しなくてはいけない罪が山ほどある。
 僕はいつまでたっても大人になりきれない。僕はいつでも不完全なままだ。なぜなら僕は誰かを一番にしてあげることができない。子供が駄々をこねるように、僕はいつも自分が一番だった。思いやる気持ちも持ってはいるが、自分の調子のいい時だけの話だ。僕は心の底から誰かに優しくしたことなんて一度もなかった。
 僕は自分が傷つけられるよりもはるかに多く人を傷つけた。未熟さゆえの罪をたくさん犯してきた。きっとこれからも罪を重ねていくだろう。でももし君と一緒にいることができれば、無意識に犯す罪だけは免れることができるかもしれないと思い始めている。
 抱きしめる力よりも、奪い取る力よりも、優しさの方がまさっていることを、僕は初めて知った。だからもう愛することを恐いとは思わない。僕は完全じゃない。君と二人で一つになろうなどと傲慢なことを考えているのでもない。ただ、君といると優しい気持ちになれるんだ。
 こんな告白は君好みじゃないかもしれない。でも君も、力ずくで手に入れたものがその瞬間に指の間からこぼれ落ちるのを体験したと言っていた。だから僕の気持ちを分かってくれるはずだ。
 僕らは似た部分をたくさん持っている。でも僕らの道程は決して楽なものにはならないだろう。似た部分を見せ合って安心するのが愛じゃない。違った部分を克服していくのが本当の愛だ。

 君のことを知りたいんだ。僕のことを分かって欲しいんだ。愛し合う前に話をしようよ。それから愛し合おう。そしてまた話をしよう。それからもう一度愛し合ってもいい。愛はそうやって少しずつ成長していくはずだ。
 青臭い考えだと思うかい? 僕はちっともそうは思わないよ。初めから成熟した愛が存在しない限り、1から始めるしかないじゃないか。
 僕らがなぜ出会ったのかは、遠い未来に二人の愛が実を結んだ時に初めて分かることだ。そしてそこに、僕らの明日がある。