オープニングテーマ
Many Rivers To Cross
Harry Nilsson
ミスター・ジョーカーはどこだ。俺に幸運をもたらしてくれるはずの、ミスター・ジョーカーはどこにいる。
俺は今、このちっぽけな街のちっぽけな裏通りで、下っ端の王様を演じ、東の空をにらみながら毎日を暮らしている。
あの、背の高いコンクリートの道路に乗っかって車を飛ばすだけで、あの、国境のように立ちはだかる河を渡るだけで、それだけでいいのに。
俺は名づけようもない重い荷物をズルズルと引きずり、この街を歩き続けている。
しかたがない。
俺は、そしてこの街のやつら全部がそうつぶやきながら暮らしてきた。そしてたぶんこれからも。
汚れた朝の街を抜け、ざわめく夜の街を帰る。俺はここで自分らしくない仕事についている。なぜこうなってしまったのか分からない。だけど、これが本物じゃないってことだけ
は、分かってるつもりだ。
ミスター・ジョーカー。あんたに会えれば、きっと答が見つかるはずだ。あんたが持っているはずの、欲望という電車に乗るためのチケット――。
M-1
Burma Shave
Tom Waits
俺はイライラしている。
あの子はそんな俺を見て、ため息をひとつ。俺はイライラしている。
「調子はどう?」
いろんなやつからそんな風に笑いかけてもらったけど、俺の答は結局いつも変わらない。
「相変わらずだよ」
相変わらずの人生なんて、まっぴらだ!
あの子はため息をふたつ。
俺はあの子を抱きしめたその背中ごしに、遠い空へ向かって苦虫をかみつぶす。あの子はいつの頃からか、それに気がついていたらしい。
パーティーは終わることなく、いつまでも続く。誰もが髪を振り乱し、金切り声をあげ
て、楽しもうと血眼になってる。俺はそのど真ん中のテーブルに立ち、ボトルをふり回している。
「もう帰ろう」
あの子がそう耳元でささやいた気がしたけど、俺は聞こえなかったふりで、何10回目かの乾杯をした。
朝の白々しい光に照らされてやっと目を覚ました時、あの子はいなくなっていた。俺はシャツのボタンをひとつ外し、あの子のために最後の乾杯をした。
だけど、終わりがすべて美しいものだとは限らない。
噂によるとあの子は、ミスター・グッドバーを探して街を歩いているらしい。
俺は3日間頭を抱えたあげくに決心した。
ミス・グッドホールを探しに、街へ出よう。
Fuck!
M-2
Well Well Well
John Lennon
朝。
昨日の夜のどんちゃん騒ぎのおかげで、耳がキンキンいいっぱなし。震える指で煙草に火を点けると、喉が焼けるように痛い。悪魔が頭をガリガリとかじっていやがる。朝焼けの
中、肉体的苦痛なんて歌にもなりゃしない。
もう何年も前に見た映画のワンシーンを真似て、俺は腕時計を放り投げた。そしてふり返りざま、時計台をチラリと盗み見る。
メインストリート。
男達も女達も、駅の改札への13階段を登りつめる。前を進むやつのかかとを一心に見つめながら。
俺はといえば、その真ん中をまったく逆の方向へ進む。肩をいからせ、だけどうつむい
て。まっすぐ前を見るには、あまりにも長い間、同じことをくり返しすぎた。
俺は歩きながら、聞こえないようにつぶやく。
「今の俺は、ホントの俺じゃないんだ」
だけど、いいかい? 攻めるってことは、自分の手の内をさらすことなんだぜ。
俺はもう一度つぶやく。
ミスター・ジョーカー。あんたはこの街にいるんだろう? この街であんたに会えることになってたんじゃなかったのかい?
俺はポケットに両手をつっ込んで、くわえ煙草で歩きだした。
ミスター・ジョーカーを探して。
M-3
Aspirin
小山卓治
ドクター ドクター 聞いてくれ
頭が痛くて割れそうだ
俺にはベッドが必要だ
できることなら隔離してくれ
自律神経がズタズタだ
何とかしてくれ
ドクターが俺に言うことにゃ
万事良好 それでこそ都会人
幹線道路じゃ工事中
金切り声のディスカウントセール
募金に署名にダイレクトメール
ガキどもが歌うロックンロール
俺はこの街にゃ不似合いの
取り残されたロマンティスト
またビンに手が伸びていく
コレステロール・シティは今日もノイローゼ
アスピリン アスピリン
誰か俺にくれないか
アスピリン アスピリン
ほらまた頭が痛くなる
エンディングテーマ
Closing Time
Tom Waits
Special Thanks To Yosao Katoh
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