オープニングテーマ
Many Rivers To Cross
Harry Nilsson
グレーの重たそうな雲が、背伸びをすると手が届きそうなくらい低く垂れこめた午後。
天気にも似合わず、わざとらしくいっせいに咲いた花壇の花と、20秒ごとに水を吹きあげる噴水。俺は公園の隅っこにある半分朽ちたベンチに腰を降ろしている。
鉄の柵越しに見える道行く人々を眺め、俺はあるゲームに熱中している。そのゲームの名を、俺は“スペンサー・フィリップ”と名づけている。スペンサーもフィリップも、有名な推理小説に登場する探偵の名前だ。
ゲームのルールは至極簡単。向こうからやって来る人間の、年齢、職業、生い立ち、性
格、果ては昨日の夜のできごとや今日の朝食のメニューまでも推理するわけだ。もちろんそれが当たっていようが外れていようが、その本人にはなんの迷惑もかからない。なぜってこれは、頭の中だけで楽しむゲームだからだ。
ほら、1人目のカモがやって来た。
男、推定35歳、いや、33ってとこか。だいぶ疲れてるみたいだ。昨日の夜の浮気がばれ
て、朝っぱらから女房と大喧嘩。その証拠に、手の甲にふた筋の引っかき傷。それに目の下にできたくま。朝食も食べずに家を飛びだし、空きっ腹のせいで午前中にミスをやらかし
て、上司から大目玉。これから浮気相手の部屋へ行き、別れ話を切りだそうかどうしようか迷っている。がんばんなよ。
次は女。15歳。学校が終わり、コインロッカーに鞄を入れて服を着替え、親には内緒でロックコンサートへ行く途中。あの網目のストッキングからしてヘビメタだな。お気に入りの買ったばっかりのミニスカート。だって値札がぶら下がってる。楽しんでおいでよ。
ゲームに飽きて、俺は立ちあがって背伸びをして歩きだした。もう1人の俺が歩きだす俺を見て、ゲームを再開した。男。最近この街に来たばかり。仕事なし。明日の当てもなし。それから……。この手の男が一番推理しにくいんだよな。
M-1
Who'll Stop The Rain
C.C.R.
俺はジャケットのえりを立て、メインストリートを歩いている。雨が降ってきた。この街で降られる最初の雨だ。カラフルな傘がいくつも歩道を舞い、男と女の笑い声が、塗れたアスファルトの上を漂う。
俺は道路沿いにある、定休日の札が出てシャッターが下りている一軒の店の前で雨宿りすることにした。煙草に火を点け、通りすぎる人々を眺めながらさっきのゲームをやろうとして、すぐにあきらめた。どの顔もどの顔も幸せではち切れそうで、悩みのかけらも見あたらず、おまけにどいつもこいつもおんなじような服を着てやがる。自慢の推理も役に立たないってわけだ。
それでも俺はそこに立ち続け、目を配り、雨の音に耳を澄ませた。何かが聞こえてくるような気がしたんだ。誰かが俺にささやきかけてくれているような……。
12時を回ると、人通りは途絶えはじめた。極彩色のネオン達は、鏡のようなアスファルトに姿を映し、水銀灯の明かりの周りだけ霧のような雨が光る。辺りは静まっていき、サラサラと雨のささやきが俺の体を覆った。その時、やっと聞こえたような気がした。
街が、雨の夜の歌を歌っていたんだ。
M-2
Parenthese
Pierre Barouh
夜中の3時くらいだっただろうか。俺はさっきからずっと同じ所にいて、だけどいつの間にか座りこんでウトウトしていた。雨はまだシトシトと降り続き、辺りには誰もいない。俺はぼんやり目を開け、雨を見ていた。
その時、1台の車が走ってきて、俺から5メートルほど離れた所に停まった。車の中には人影がふたつ。何か話しているみたいだ。どうやら人影は男と女で、口論しているらしい。
突然、助手席のドアが開き、ブルーのワンピースを着た髪の長い女が飛びだした。女は運転席に座っている男をにらみつける。雨が女の髪を濡らし、頬を伝って流れた。もしかすると涙だったのかもしれない。女はクルリと向きを変え、足早に走りだした。パンプスが歩道の雨をはねあげた。女はふり返らなかった。
俺は運転席のドアが開くのを待った。男の影は動かなかった。影は煙草をくわえ、マッチを擦った。男の顔が炎の中にぼんやり浮かび、そして消えた。
男がラジオのスイッチを入れたらしく、陽気なDJの声が微かに聞こえはじめた。雨の夜
の、この街の別れにふさわしく。
――ということで、締め切りは来週の土曜日の消印のあるものまでとしますので、ご応募の方をどんどんよろしく!
それじゃ、お便りの紹介です。まずは名古屋の佳美ちゃん。
「こんにちは。第1回目の放送、聞きました。最初に流れてきたのが、あの懐かしいナンバー。確か、ライヴの開演の時にいつも流れてた曲ですよね。あれは、あなたのテーマソングなんですか?」
そうです。あれはハリー・ニルソンの“メニー・リヴァー・トゥ・クロス”という曲なんですね。
次の葉書は、京都の池田みちるちゃん。
「あなたの好きな本に、“イリュージョン”がありましたね。あれ、私も大好きなんです。ジョナサンも好き」
リチャード・バックの“イリュージョン”って本、すごくおもしろいんで、みんなぜひ読んでみてください。
その他にお便りをくれたのは、静岡の高城みえ子ちゃん、大田区の渕上みきちゃん、調布の光田ひろ子ちゃん、中野区の原陽子ちゃん、その他、みんなどうもありがとう。
曲は、“HEAT OF THE NIGHT”――
M-3
HEAT OF THE NIGHT
小山卓治
バックストリートからはい出した
俺達ネオンに取りつかれ
真夜中の街を流してる
約束をタイヤで踏みつけ
前の角で殴られてた
男ときたら俺にそっくりさ
そこの角で客を待ってる
女ときたら君にそっくりさ
246 246
俺はジョン だから君はヨーコ
246 246
あきらめたわけじゃないんだぜ
246 246 in the night
――そんなわけで長々とやってきたんだけど、今夜も最後まで聞いてくれてありがとう。来週もたくさんいい曲をかけようと思ってます。土曜の夜の12時半にまた会いましょう。
最後の曲は、ディレクターの加藤与佐雄さんも大好きな曲です。京都の工藤美智ちゃん、滋賀の吉見まゆみちゃん、リクエストありがとう。
曲は“Looking For Mr. Joker”――
エンディングテーマ
Closing Time
Tom Waits
第10話へ
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