オープニングテーマ
Many Rivers To Cross
Harry Nilsson
ミスター・ジョーカーはどこだ。俺に幸運をもたらしくてれるはずの、ミスター・ジョーカーはどこにいる。
俺が鼻の頭にニキビをこしらえ始めたあの頃、ラジオのスイッチをひねると、いつも旅する男の歌が流れてきた。
「さあ、家を飛びだすんだ! 旅に出て、君の自由を勝ち取るんだ!」
俺はいつか必ず自分もそうして旅に出るんだと、信じこんでいた。
月日が流れ、自分がいっぱしの男になったんだとやっと自信を持てた時、ラジオはもう旅の歌を歌わなくなっていた。代わりに、浮ついたラヴソングや、愚にもつかないインストロメンタルがフワフワと流れだした。俺は振り上げたこぶしと旅用の歯ブラシを、完全に持て余してしまった。
そんなある日、1人の男がエイトビートに乗っけて旅の歌を歌い始めた。男はバイクに飛び乗り、夜の街をつっ走り、そしていとも簡単に真実を手にした。そして朝になると、眠い目をこすりながらママの待つ家へ帰っていった。
ふざけんな! 旅ってのはな、こうやってやるんだよ!
俺はギターケースにジョンのレコードと新しいノートとアスピリンをぶち込んで、その夜のうちに家を出た。
――3日後。俺はおんぼろアパートの一室で、1円の金も持たず、空きっ腹を抱えて、新聞の求人広告に赤丸をつけていた。
……ありゃ?
M-1
The Show Must Go On
Three Dog Night
雨が降りだした。それも特別製のどしゃ降りの雨。俺が何かをおっぱじめようとすると、決まって外は雨模様だ。俺は部屋の真ん中に座りこんで、何かいいアイディアでも浮かばないものかと、煙草の煙を眺めている。
出会いを待つドアと、夜明けを知らせる窓に挟まれながら毎日を送ってきた俺に、いったい何が見えるだろう。壁には日常が張りつき、ベッドの下で最後の手段ってやつが埃をかぶっている。
部屋が俺を見放し始めた。ここは俺が帰りつく所じゃない。ここは俺が出発する所なん
だ。部屋が俺をあきらめ始めた。
俺はこの部屋に欲望の種をまきたい。フワリフワリと浮かぶもの達よ。俺はおまえ達が出ていく窓を開けなければいけない。そして俺自身のために、ドアから歩きださなければいけない。
傘など初めから持っていない。レインコートを着るほど臆病じゃない。背中を丸めるほど意気地なしじゃない。
M-2
I&I
Bob Dylan
俺は街角につっ立っている。別に誰かを待っているわけでもストリート・パフォーマンスをやっているわけでもない。ここに立っているのが今日の俺の仕事なんだ。
俺が両手で持っている大層な看板には、赤い太文字でこう書いてある。
〈ブーツ 4割引から6割引〉
最初の1時間は、恥ずかしくてまともに顔を上げていられない。
2時間で足がジンジンしてきた。
3時間たった頃、ちょっとした知り合いが向こうから歩いてきた。そいつは俺を見つけると、親の仇にでも会ったようなツラをして、遠回りをして歩き去った。
4時間。もう恥ずかしくもなんともない。俺は無遠慮な目で辺りをジロジロ見回し、女のケツを目で追いかける。
5時間。俺はついに我に返った。俺はいったいここで何をしてるんだ。誰がブーツを6割引で買おうと、俺の知ったことか!
俺が大きく息を吸いこみ、看板を叩き壊そうとした時、店のオーナーがやって来て、俺に金を渡し、俺の肩を叩いて歩き去った。
俺はポケットに金をねじ込み、歩きだしながらつぶやいた。
「きょ、今日のところは勘弁してやる」
俺の旅は、どうやらまだ始まっていないらしい。
M-3
Our House
C,S,N&Y
ミスター・ジョーカー。今日もあんたに会えなかったね。
1日が終わり、疲れを背中にしょった人間達が、駅のホームに3列縦隊で並びはじめる。ある者は目を伏せ、ある者は活字で顔を隠し、ある者は酒で心を隠し。
間の抜けた音をたてて、電車がホームに滑りこんできた。俺はつま先で煙草をもみ消し、開かれたドアへ向かった。
ミスター・ジョーカーを探して。
M-4
最終電車
小山卓治
足を引きずって改札へ急ぐ
世間の丸い背中を車掌は見届ける
靴音が響くホームの端っこで
励ますように高く今夜も笛を吹く
出発進行って毎日くり返してきた
俺達いったどこへ出発したんだろう
夢っていうのは少しずつすり切れていくけど
明日はせめて今日よりもましな1日を
電車は闇の中 無言で突き進む
明日こそは幸せな朝を迎えたい
明日こそは幸せな朝を迎えたい
エンディングテーマ
Closing Time
Tom Waits
第3話へ
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