オープニングテーマ
Many Rivers To Cross
Harry Nilsson
世の中が逆さまになっちまってる。逆さまのビル、逆さまのネオン、逆さまのショーウィンドウ。黒い人ごみが逆さまになって、音もなく滑るように通り過ぎている。
逆さまのポリバケツ、逆さまの野良犬、逆さまの笑い声。俺はいったいここで何をしているんだ。
ついさっきまで、どこかの店で飲んでたような気がしてたんだけど……。
そういえば、そこに目つきの悪い男が2、3人いて、なんだか知らないけどからまれて、表に出たとたんに後ろから殴られたんだっけ。ここはいったいどこなんだ。
逆さまの空、逆さまの歩道橋、逆さまの俺。
通りかかった酔っぱらいが俺を見下ろして言う。
「どうしたんだい、にいちゃん。派手にやられたな」
「うるせえな。ほっといてくれよ」
俺はギシギシいう体をやっとの思いで起こし、逆さまの世の中を元に戻した。買ったばかりのシャツが破けちまってる。ポケットからくしゃくしゃの煙草を取りだし、切れた唇にはさみ、火を点けようとしたが、ライターをどこかに落っことしてしまったらしい。舌を鳴らし、ため息をひとつ漏らした時、あいつは俺の前に現れた。
「そんな所で何やってんだい?」
「俺がここで詩でも書いてるように見えるかよ」
「少なくとも、明るい詩を書いてるようには見えねえな」
俺は煙草をくわえたまま立ちあがり、服の泥を手ではらった。あいつは黙ってポケットからライターを取りだし、火を灯した。俺はあいつの顔をしばらく眺め、それから火を点け
た。
「ミスター・ジョーカーってやつを探してるんだけど、知らないか?」
「そいつだったら、3年前にこの街で別れたっきりだよ」
俺はいつの間にかあいつと肩を並べ、ゆっくり歩きだしていた。どうやら、妙ちきりんな相棒ができちまったらしい。
M-1
Back Street
Bruce Springsteen
あいつはとにかく、でたらめなやつだった。俺は今まで自分のことをとんでもないやつだと思っていたが、あいつと一緒にいると、自分が思慮深い男に思えてくる。
俺がギターを弾くと、あいつは帽子を持って小銭を集めた。俺が女に振られると、あいつは3日間笑い続けた。俺が店先でリンゴをちょろまかすと、あいつは箱ごと持ってきた。俺がギャンブルで1万すると、あいつは10万すった。
俺達はいつも大声で笑い、肩で風を切った。この街のいくつかの通りで、いつしか俺達はいっぱしの顔役になった。
ある晩、俺達は乗り捨てられた車のボンネットの上で、ビールを飲んでいた。
あいつはしばらく遠い目をした後、俺に言った。
「うまい話があるんだ」
俺はあいつのそんな顔を初めて見たような気がした。だけど、うまい話なら乗らない手はない。
俺達はあるビルの下までやってきた。あいつはまぶしそうな顔でビルを見上げ、つぶやいた。
「この中に、宝の箱が収まってやがるんだ」
M-2
Your Mother Should Know
The Beatles
追われる人間は高い方へ逃げるって話は、本当だな。
俺達は宝の箱を抱え、考えもなしに非常階段をのぼっていた。追っ手はすぐそこまで迫っているようだ。俺達は鉄格子を破り、屋上へ踊りでた。
その時、鉄の板を丸太で思いっきりぶん殴ったような音が響き渡り、あいつがゆっくり倒れるのが見えた。
世の中の時間がすべて止まり、俺はあいつを抱きかかえた。
「映画みたいにゃいかないもんだな。高倉健にだまされた」
「お願いだ。俺は誰かに先を越されるのに慣れてないんだ。先にいってしまわないでくれ」
俺達いつもこうだ。最後の最後にドジを踏む。結局やられるのは、俺達の方なんだ。
あいつは最後にこう言った。
「言い忘れてたことがあったよ。ジョーカーは、もうこの街にゃいないよ。あいつに会いたかったら、この街を出るんだ」
M-3
Hustler
小山卓治
俺達やばい橋を
幾度も渡ってきたんだ
今度の山を当てたら
あの場所で落ち合おう
約束だぜ
俺達いつも一緒さ
歩道に座り込み
俺はおまえを思いながら
Bluesを吹いてる
1人だけ先に行くなんてひどいじゃないか
俺は1人ぼっちのペテン師さ
no-no-no 何て素敵なゲーム
いつもの夜、いつもの街、いつもの人ごみ。
俺は何ひとつしでかさまいまま、ここにいる。何も始まっちゃいない。何も終わっちゃいない。
だけど、あいつほどではないにしろ、でたらめの人生を送ってやる。
俺は肩で風を切りながら歩きだした。
この街ではもう会えないかもしれない、ミスター・ジョーカーを探して。
エンディングテーマ
Closing Time
Tom Waits
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