オープニングテーマ
Many Rivers To Cross
Harry Nilsson
長距離トラックを15台捕まえそこねた後、俺は国道沿いにあったファーストフード店の駐車場に座りこみ、煙草を吸っている。
午前2時。今夜はどうもついてないらしい。何台ものトラックが目の前を通 り過ぎるのを眺めながら、俺は始発電車を待つことに決めた。ゆっくりと腰を上げ、時間をつぶす方法をあれこと考えながら俺は歩きだした。朝まで、まだずいぶんある。
俺はふと、オールナイトをやっているさびれた映画館の前で立ち止まった。30年も前に公開された、モノクロのフランス映画の看板がかかっている。ヌーベルバーグ時代のその映画を、俺はもう2度見たことがあったが、ギシギシうるさい椅子にふんぞり返り、俺はスクリーンを眺めはじめた。
どこからか、地の底から沸きあがるような音が聞こえ始めた。俺の席から横にふたつ離れた席にいた男が、気持ちよくいびきをかき始めた音だ。俺はしばらく我慢していたが、スクリーンの中の男が計画通りに殺人を決行したのをきかっけに立ちあがった。
「おっさん。はっきし言って、かなりうるさいぜ」
男は寝ぼけまなこで起き、俺を見上げた。
「俺がうるさい男だって? そう、俺はうるさい男なんだよ。昔、ジョーカーもそう言ってた」
「……おっさん。ジョーカーを知ってんのか?」
「あ? ああ。あいつは俺のダチだ」
M-1 I Don't Want To Talk About It
Rod Stewart
あいつに会いたいんだったら、方法はいくらでもあるぜ。あいつはどこにでもいる。夜
中、何かがおっぱじまったら、あいつはそこにいる。男が戦っている時、あいつはそこにいるし、女が泣いている時もそこにいる。昼の焼けつく陽射しの中にも、夜の凍てつく闇の中にも、あいつはいる。
俺がずいぶん前にあいつに会った時、あいつは宣教師みたいなことをしてた。ところが、次にあいつに会った時は、詐欺師をしてた。
あいつが何者なのか誰も知らないし、あいつに会ってどうなるかも皆目分からない。だけど、誰もがあいつに会いたがってる。
最後にあいつに会った時、あいつがこんなことを言ってた。
俺は希望なんだ。そして人によっては愛だし、また人によっては絶望だと。
ジョークにしちゃあ、しゃれたもんだ。
そういえばその時、あいつがこんなものをくれたよ。もしあんたがこれからあいつを探しにいくんだったら、こいつはあんたのもんだ。
見てみなよ。オルゴールだとよ。とぼけたやつだぜ。まったく何考えてんだか。
このメロディーが希望の歌に聴こえるようになった時にまた会おうって、あいつは言ってた。
あんたにはどんな風に聴こえるんだろうな。
M-2
The Sad Cafe
Eagles
空が紫色に染まりはじめた。朝だ。
人っ子1人いないビル街の真ん中で、俺は煙草に火を点ける。ライターの炎の周りに昨日の夜が集まる。右手を高く掲げ、指を鳴らす。その音がコンクリートに反射して、短いこだまを作る。俺は明け方のビールを飲みながら、世の中が動きだそうとするのを見届ける。
男達は昨日の酒を忘れようと充血した目で、女達は昨日の男を忘れようと乾いた唇で、それぞれに鏡に向かう。
俺はといえば、この街で拾った夢のかけらをひとつ残らず鞄に詰めこみ――もっとも小さな鞄ひとつに収まっちまったが――ラジオから流れる旅の歌を聴いている。
俺はいつも不自然な道をたどってきた。誰かのために、などと言い訳をしながら。だけどもういい加減に本当の旅を始めようじゃないか。自分のためだけの本当の旅を。
今まで、俺はずっと弱虫のまま生きてきたけど、少なくともまだ懲りちゃいないぜ。
M-3
Bad Dream '86
小山卓治
僕は正直者の振りをし続けて
今までずっと馬鹿を見てきたけど
あしらわれながら利用されるほど
奴等に言いなりのうすのろじゃなかったんだ
君を養ってあげると肩を叩くやつがいる
唇で転がす約束に僕はだまされない
走りだせばまだ間に合う
汚れた手でつかみ取れ
俺は今、不毛な夜を送り、不毛な朝を迎えた、この生まれ育った街から、ぐんぐん遠ざかっている。やみくもの抵抗を捨て、挫折の沈黙を越えて。
言い残したことが山ほど頭を駆けめぐる。見失っていたたくさんの言葉を思いだしなが
ら、この街を離れよう。
この街ではとうとう一度も会えなかった、ミスター・ジョーカーを探して。
エンディングテーマ
Closing Time
Tom Waits
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